日本のプロのゴルフトーナメント(ツアー)は男女とも試合数、賞金額ともに世界でも屈指のゴルフ大国。なのに世界的なプレーヤーは数えるほどだ。過去には全米女子プロゴルフ選手権優勝の樋口久子・現日本女子プロゴルフ協会会長、米国女子ツアーで賞金王になった岡本綾子プロ、世界マッチプレーやハワイアイン・オープンなど、世界の四大ツアー(米・欧・豪・日)で勝利を挙げた青木功プロの各氏がいる。現役では、米ツアー三勝の丸山茂樹選手も昨シーズンはシード権を喪失。残るは、十四歳で単身渡米し昨年米ツアーで初優勝した今田竜二選手のみ。
どうすれば世界で勝てる強いプレーヤーを育てられるのか。トーナメントプロデューサーの大西久光氏、公式競技で何度も優勝し「公式戦男」の異名を持つ金井清一プロ、NHK衛星放送のテレビ解説でおなじみの佐渡充高氏にいろんな角度から検証いただいた。
―まずは、本邦初の国際試合「ダンロップフェニックストーナメント」をはじめ、多くのトーナメントをプロデュースし、コース設計にも携わってこられた大西さんから。
大西 日本のゴルフ界で一番考え直さなければならないのは、ゴルフの原点にもう一度戻ってみること。たとえばプロゴルファーの場合でも、飛距離がよく話題になりますが、他にもっと大事なことが沢山ある。私自身は、心・技・体、それに頭と運という五つの要素があると思います。技以外の要素についても、もう一度考え直す必要があるでしょう。
「名コースが名選手を育てる」というのは間違いないことです。その国のゴルフのレベルを見るにはゴルフコースを見れば分かるといっても過言ではありません。例えば、かつて全英オープン五回優勝のピーター・トムソン、世界のナンバーワンになったグレッグ・ノーマンを初め多くの名手が世界で活躍しているオーストラリアにはタフな名コースが沢山あります。ただ、最近私の中で「?」マークが付いているのは、韓国の選手がなんであんなに強くなったのか?ということ。韓国には、日本の十パーセントほどしかコースがなくて、それほど優れたコースがあるようには聞いてないので、何故?という疑問はあります。
―金井プロは、サラリーマンからプロゴルファーに転身し、公式戦には特に強かった。初タイトルが日本プロ選手権。日本プロにはその後も勝っているし、関東オープンとか、シニアになってからも日本シニアオープン三連勝とか。
金井 最初の優勝は一九七二年の日本プロ(紫CCすみれコース)。無我夢中で何がなんだか分からないうちに優勝しちゃったという感じです。十六番を終わって、ジャンボ尾崎を一ストロークリードしていたこと。で、十七番がパー三で二百ヤードくらい。当時のグリーンはすり鉢型になっていて、手前のほうにピンが切ってあったので、当然下りになっています。そこで、僕はティショットを四番ウッドで打ったんですけどもバンカーに入れてしまって。で、ジャンボは四番アイアンで打って、ピンの真下のカラーのところ。どういう状況なのかボールのあるバンカーを見にいったんです。そうしたら、旗竿の一番上の部分しか見えなくて、ちょっとでもダフるとダーっと向う側に滑っていっちゃうようなグリーン。ジャンボも上からのぞいていて、「しめた!」というような表情でニヤッとしたように見えたんです。
それで僕の闘志がむき出しになりまして。この期におよんでホームランなんか気にしていられないので、思い切ってやったらピンそばにいったんです。あまりにも拍手が大きいので、正直出ていくのが怖かったです。「もし一メートル以上残っていたらどうしよう」とか思いながら、緊張でひざがガクガク笑っちゃってるんです。で、行ってみたら、ピンから十センチか十五センチくらいのところ。このショットにジャンボが「そんなわけねえだろう」なんて顔して。相当あせったんでしょうね。アプローチをすっ飛ばしちゃいましてね、なんとボギーを叩いてくれたんです。それで優勝することができました。
その後、取材で「あのバンカーショットをもう一回見せてくれ」ということで、ある雑誌社から頼まれて、一日がかりで同じ場所でバンカーショットしましたけど、一発も寄りませんでした(笑)。石川遼くんがマンシングウェアKSBカップで勝ったときの十七番のバンカーショットと似てるかなと思います(笑)。大西さんのおっしゃる運、ツキがあったんですね。
大西 ゴルフは上手いだけではダメで、勝つ人は運も持っているんですよ。そういうときに寄るというのも、勝負師たる所以ですよ。
金井 「コースがプレーヤーを育てる」ということですが、僕は河川敷の都民ゴルフ場で始めたんです。僕は元々電気屋さんに勤めていて、練習はもっぱら都民ゴルフ場。バンカーといっても土同然。適当にポンッと打てば出てくれる。そういうところでゴルフを覚えて、それでインストラクターになったときに、練習場で生徒さんに「明日、コースレッスンをお願いします」と言われて、行ったのが大箱根CC。ところが大箱根CCではバンカーからちっとも出ないんです。あんな二階建てみたいなバンカーから打つのは初めてですから。
―インストラクターなのに、バンカーから出なかった(笑)。
金井 それで当然のごとく僕はクビ(笑)。それからですね、我孫子ゴルフ倶楽部へ連れていってもらって。秋葉原の練習場に我孫子ゴルフ倶楽部のインストラクターが来ていたんですよ。そういう関係で青木(功)さんとか鷹巣(南雄)さんとかと知り合いました。我孫子は練習場のバンカーも結構深いんです。練習を重ねてやっと出るようになったら、今度はボールがコロコロコロと向うに落っこっちゃう。青木さんが来て、「オメェのバンカーショットはよぉ、ダフってるよ」と言うんです。僕はバンカーショットはダフるものだとばっかり思っていた。そしてらダフっちゃいけないんですってね(笑)。そういう修業を積んで、バンカーがなんとかまともにいくようになったんです。まさに「コースがプレーヤーを育てる」ですね。
―NHKの衛星放送で米ツアーのテレビ解説者としておなじみの佐渡さんはもともと日本でゴルフ担当の記者でしたね。
佐渡 太平洋クラブマスターズ、現在の三井住友VISA太平洋マスターズで大学一年のときからキャディをやらせていただいていたんです。一、二年目はギル・モーガン、三、四年目はトム・ワトソン。やっぱりアメリカのゴルファーって凄いなってそのときに思ったんですね。大学四年のときにワトソンのキャディをして、彼が二位とか、四位とか良い成績をあげてくれたんですね。そのときにチップを千五百ドルいただいたんです。当時のレートでいうと三十万円くらい。ワトソンに「翌年、もしハワイアンオープンに来るんだったらこれを使ってきなさい」と言われて行ったのですが、それがUSPGAツアーの最初の体験。そんなこともあり、いつか海外のゴルフをもっと本格的・専門的に、たくさん見てみたいという気持ちがありました。
―それでアメリカに住みついたんですか。
佐渡 行くんだったら、ちゃんと住まなければ、アメリカの人たちの考え方や生活ぶりというのを実感できないと思っていたので「やるんだったら徹底的にやろう」と最初はロサンゼルスに一年半、一九八七年から二〇〇二年の夏までニューヨーク。通算で十七年くらいいましたね。
強い選手を育てるためのコースセッティング
―大西さんは全英オープン五回優勝のピーター・トムソン(英国)からいろいろ学んだそうですが。
大西 トーナメントのやり方とか、スコットランドのコースのこととか、ゴルフがどうやって始まったかとか、そんなことを彼から教わって、まあいろんな説がありますが、彼から教わったことが一番正しいと思って、その当時から師事していました。だけど国際化を考えたのは、一九七一年(昭和四十六年)の日米対抗からです。これを企画したのが最初です。
アメリカの選手をギャランティーで呼んできたのですが、当時は力の差がありすぎて、勝負にならない。それでノーギャランティーのゲームをやろうと。一九七四年にダンロップフェニックスを始めようということになり、ジャック・ニクラスの自宅まで「日本に来てほしい」と交渉に行きました。だけども当時彼は三十四歳で、一番油の乗っているときです。「オフシーズンだからやる気がない」というのを無理矢理口説いて連れてきました。
彼のグループにジョンさんというトーナメントディレクターがいました。当時の日本ではトーナメントディレクターというのがまだいなかった頃です。そのとき初めてグリーンを速くするということをジョンさんから習った。バミューダ芝のグリーンを、「十六分の五インチにカットしろ」と言う。バミューダの五ミリちょっとに刈ったグリーンが、当時は速すぎて、青木プロをはじめ日本のトッププロがみんな僕のところへ文句を言いに来ました。それが日本の速いグリーンのはじまり、まだたった三十何年。トーナメントをやる場合にコースの選び方、あるいはコンディションの作り方、コースセッティングの仕方、ホールロケーションのとり方、そういうことが日本では、まだ成熟していないと思う。
―年に何度かはタフなセッティングのコースでやる試合もありますが、全体的に見ると、易しすぎるコースがいまだに多い。そんな中で大西さんは、大洗GCとか東広野GCとか、あるいは小樽CCといった日本でも屈指のタフなコースで試合を開催していますが、開催コースの基準みたいなものはありますか。
大西 例えば、初めて三菱のトーナメントをやるとき、大洗の理事長にお願いに行きました。そのきっかけは、若いときにアマチュアの選手としてやっているときに大洗で日本アマがありまして、本当にオオア(ワ)ライするほど叩きましてね(笑)。それで、「えらい難しいコースだなあ」と思ったんですけども、やっぱり僕は井上(誠一)さん設計の中でも一番いいコースだと思っています。それで「ぜひとも」ということでお願いして、今でも少なくとも三年に一回は大洗でやらしていただいています。そういう中で、ワングリーンじゃなくて、手前が高麗、奥がベントと芝が違っていたのを、トーナメントのためにワングリーンに直してもらったりしました。最近では、東広野でやらしてもらった三菱ダイヤモンドカップは、おそらくその年のツアーの中では一番いいセッティングだったと思います。
〇七年の日本オープン、相模原GC。これはツーグリーンということもあったんですが、ラフが非常にシビアだった。何人かの方から、あのコースのセッティングを真似たいということで、「教えてほしい」という電話がかかってきたりしたんですけども、私自身はプロアマで回って、これはちょっとマズいなあと思ったのです。例えば、五百ヤードを超えるパー四のホールで、ちょうどロングヒッターが打っていく地点のフェアウエーの幅が二十ヤードもなかった。つまり、出場する選手たちにどういう技術を求めているのかというコンセプトが明確じゃないように思えたんです。これだと、距離は長いんだけど、刻んできた人のほうが有利になります。やはり飛ぶ人に正確さを求めるのならフェアウエー幅は、最低でも三十ヤードは必要です。
もう一つ考えていただきたいのは、以前、ピーター・テラベイネンという選手が日本オープンで勝った試合が茨木CCの西コースであったのですが、フェアウエーの幅が十五ヤードくらいしかないんですよ。フェアウエーよりグリーンの幅の方が広い。要するに、セカンドショットよりもティショットに正確さを求めているというセッティングだったんです。普通ゴルフというのは、ティショットで狙う幅が広くて、セカンドショットで狭くなり、最後は直径十一センチのカップに入れるという、ターゲットがだんだん狭まっていきますよね。だから、そういう意味でいうとツーグリーンというのはターゲットがますます広がってまずいんです。日本が誤っているのは、狭いフェアウエーを作ってプロが苦労する姿を見て「ニヤニヤ」しているというか、いいスコアが出るコースはあまりいいコースじゃないという間違った認識があるように思えるのです。だけど、私が長年見てきた中で、一番面白いトーナメントは優勝スコアがだいたい八~十アンダーくらい、一日二~三アンダー平均くらいのゲームなんです。ただし、全米オープンに出るような選手のレベルと、日本オープン、あるいは日本アマに出てくるような選手のレベルと、出場する選手によっても当然変えなきゃいけないんです。だけども出てくる選手に合わせたセッティングというのもあまり考えていないように思います。
本当に選手の技量に何を求めるかという指針を明確にしてコースを選んでもらわなければならない。日本オープンなんかは確かにいいコースが選ばれていますよね。だけども、この間も川田(太三)さんに「どうしてワングリーンに決めて選ばないんですか?」と聞いたんです。「何年かやったけど、いつの間にかそれが崩れて今はツーグリーン」とおっしゃっていましたが、やっぱりその辺から直さないと。グローバルな時代にあって日本のトーナメントは世界から笑われると思う。
日本選手は飛距離コンプレックスが強すぎる
―日本のレベルを上げるには、開催コースのセッティングについて、男子ツアーを統括するJGTO(日本ゴルフツアー機構)がある一定の基準のようなものをつくるべきでしょうか。佐渡さんはアメリカで本場の試合を見続けてこられて、いかがですか。
佐渡 なぜ日本人がUSPGA(米ツアー)で良い結果を出せないのか、やっぱり距離的の問題が一番大きいと思います。日米のトップクラスの選手の平均飛距離の数字を見ると、実はほとんど変わらない。アメリカが今、ババ・ワトソンで三百十五ヤードくらい、一方日本は三百十七ヤードでしたっけ? 日本のほうが実は数字だけ見ると飛んでいるんですよ。じゃあ、なぜ飛距離かといいますと、一番違うのはキャリーなんです。アメリカの選手はキャリーで大体三百五ヤードくらい飛ばします。一方、日本の選手はキャリーは二百七十ヤード台。キャリーだけを見ると相当差があります。アメリカの春先の試合というのは、雨が多く結構ウェットなコンディションでトーナメントが開催されることが多い。ですから、ある程度狙えるポイントまで、どれだけキャリーで運べるかというところが勝負のカギとなるのです。
数字だけ見ると、アメリカの選手と遜色ないという意識でUSPGAツアーに行くので、実際、そういう局面に当たったときに「あれ?」って思う。「こんなはずじゃなかった」というネガティブな気持ちが出てきてしまって、そこで自信も失くすでしょうし、勝手が違ったということで、自分のゴルフができないということがある。谷口(徹)選手も数年前まではそんなに飛距離のことは言っていませんでしたが、昨年のUSオープンのときに話を聞いてみると「さすがにこれだけ長いと、自分の飛距離では太刀打ちできない」と話していました。
丸山茂樹選手はUSPGAツアーで三勝。すごい実績ですよね。丸山選手は二〇〇〇年からUSPGAツアーに参戦していますけども、当初は平均飛距離でトップテンに入っていた。飛距離に対するコンプレックスというのはなかったんですね。アプローチも世界でトップテンに入るような技を持っていましたから。ところが、最近の不調、低迷ぶりは丸山選手らしくないんですけども、悩んでいるところはやはり飛距離。二〇〇〇年当時トップテンに入っていた飛距離が今では、百五十位前後。自分のゴルフスタイルを思い切って変えるという大胆な発想があればまだ気持ちの面で楽というか、立ち向かっていく姿勢になれると思うんですが。
あとは、言葉とか、カルチャーの壁です。言葉ができないことはそんなにハンディキャップじゃないと思っていたのですが、やはり言葉が通じないと相手の気持ちを理解することが難しい。相手がこうだからこういうところを攻めていこうとか、自分で作戦を立てながら戦うのが難しいというのがあると思います。
今田竜二選手が〇八年に一勝を挙げましたが、彼は十四歳から渡米し、言葉ができるだけではなくてアメリカのこともかなり分かっている。バイカルチャーというやつですかね。そういう日本人が出てきた。アメリカやヨーロッパにスポット参戦する日本人選手と根本的に違うのは、そういうところだと思います。
―今田選手のデータを見ると、ドライバーの飛距離は二百七十ヤード台ですよね?
佐渡 二百七十六ヤードです。丸山選手とほぼ同じくらい。
―ゴルフは飛ばすだけじゃなく、いろいろな要素がかみ合って成り立っているゲーム。かつてニクラスとUSオープンで優勝を競り合った青木選手はアメリカでも「五十ヤード以内は世界一」といわれていました。米ツアーでサンドセーブ一位になったこともある。トウを浮かして打つ独特のパットは「東洋のマジシャン」といわれて恐れられていた。飛距離では劣ってもショートゲームを磨きあげれば、日本人選手が活躍する余地は十分にあるのでは。
大西 実際に今田選手がそういう飛距離で十分に戦っているわけですからね。最近は道具も良くなってものすごく飛びますよね。だけど、基本的にドライバーというのは、全部フェアウエーに打てるほど真っすぐいくものじゃない。飛べば飛ぶほど曲がる率も大きい。飛ぶ人ほどフェアウエーキープ率が悪いんです。石川遼選手も、一生懸命ドライバーの練習をして、ドライバーばかりやっているようだけど、ドライバーを完璧に打てるようになるというのは、不可能に近い。
自分に合ったゴルフの伸ばし方を考える
金井 シーズン中、体を駆使してトレーニングに取り組んで、果たして良い成績が出るのか。これは難しい問題だと思うんですよ。シーズンオフの期間の中でどういう割り振りでトレーニングをするか、球を飛ばすにはパワープラススピード、これが兼ね揃わないとボールは飛ばない。それにはやはり三カ月くらいの期間が必要なんですね。それを丸山くんはシーズン中にやっているわけですか?
佐渡 ええ。シーズン中に週四、五回はやっています。アメリカの選手って、オフにやるのではなくシーズン中に平行してやるんです。だから、そういうふうにやるものだと、丸山選手も受け取っているんだと思います。
金井 シーズン中でも三週間ぐらい空ける場合がありますよね。そういう中でキチッと割り振りをしていかないと、むやみやたらに飛距離アップだ、ダイエットだとシーズンの真っ最中にやると、今度は肝心かなめのパッティングとかアプローチに響いてくる。
大西 あんまりドライバーに集中しすぎると、小さいクラブがダメになるんだね。
金井 だから、トレーナーの良し悪しというのをある程度考えて、きちっと理解したトレーニングの方法でやっていけば、十分戦えると思います。
大西 丸山選手の場合は、ちょっとウェートを落としすぎたというのもあるかもしれませんけどね。だけど、彼が三勝した内容を見るとやはりショートゲームの上手さ。一度全米オープンで四位になったけど、優勝争いにも加わったよね。あのときの全米オープンのセッティングがもっとフェアだったら、彼はもっと上にいけたと思います。あの頃の丸山選手のゴルフは一つの形ができていた。ところが去年、彼のプレーを見たんだけど、あまりにもドライバーにこだわったがために自分のゴルフの形が崩れていた。あと十ヤード飛距離を伸ばして、スコアがどれだけ良くなるのか疑問ですね。
トム・カイトが賞金王になったときのドライビングディスタンスが二百五十ヤードくらい。今みんなアプローチウェッジといってウェッジを三本にしていますが、それを最初にやったのはたぶん彼だと思います。大きいクラブを外して。
金井 六十度を入れるとか?
大西 あのときは八十ヤードから二つでいける方法を考えるというのが彼の戦略だったんです。要するに、データを見たら自分は飛距離が出ないからパー五でのバーディ率が悪い。だからサードショットの八十ヤードからビシッといって二ヤードくらいのパットをうんと練習して、この二つでバーディを獲るという戦略で、賞金王になったんです。
金井 青木さんもその戦略をとってましたよね。
大西 それからジェフ・スルーマンなんかもね。彼は日本人よりも小柄で飛ばなかったんだけれども、それでも堂々とゴルフをしてきましたよね。ゴルフというのは、その人に合った一つの形があると思うんですよ。女子ツアーは六千四百ヤード台のコースが増えてから、二百四十ヤード以上飛ばない人は厳しいと思うけど、男子の場合は二百七十から二百八十ヤードくらい飛べばそんなに不自由することはないと思うんです。七千五百ヤードとかになるとちょっと厳しいと思うけど。
佐渡 でも七コースくらいはありますね。七千四百ヤードになると、十コースを越えますね。
大西 一昨年の小樽CCが七千五百ヤードだったんですよ。三日目にものすごく天気が悪くなって、強い風と小雨になった。そうしたら皆ガタガタにスコアが悪くなったんだけども、最終日に風が吹かなくなったら、皆二アンダー、四アンダー、中には六アンダーなんていう選手もいたかな。だからね、七千五百ヤードあっても十分にこなせるんですよ、日本の選手も。
―金井プロは、失礼ですけど飛ぶ方じゃなかったですよね(笑)。
金井 僕と杉原さんと、強いて言えば芹澤信雄を引っ張り込んで、トーナメント中にデータを出してくるじゃないですか。あれを下から数えて俺が勝ったの負けたのという、そんなレベルでしたから。
―金井プロのプレーで大変記憶に残っているのは飯能GCの関東オープン(八五年)。当時絶好調の中嶋常幸プロと競り合ったというよりも、最終日に前半で勝負がついたという感じで金井プロが勝ちましたね。ドライバーの飛距離は五十ヤードは違ってたのに。
金井 いや、もっと違ってました。六十から七十ヤード。
―それでも勝てるところにゴルフの面白さがある?
金井 僕は一九七二年の日本プロに優勝させてもらって、その頃から東海大学のトレーナー、田中誠一先生についたんですけども、「トレーニングお願いします」と言って、グラウンドを一周して、ちょっと体操したら「あなたは素質ありません」と。「どうしてですか?」と聞くと、「あんたトレーニングしたら球飛ぶようになると思うでしょ。それは間違いです」と言われました。トレーニングしている人は、飛ばなくなることはないけれども、私は赤い筋肉が多く、赤筋優勢型ですから長持ちする方、つまりマラソン型。トレーニングをしてすぐ効果が出るのは白筋優勢型。カール・ルイスとか、短距離派。魚でいうとヒラメ(笑)。
佐渡 白筋、赤筋を見分けるのは、どうやるんですか?
金井 これは優秀なトレーナーになると動きで分かるそうです。僕は長持ちのほうなんです。ですから、一年間フルマラソンをすれば、バテなければ勝てると。そういう戦法を田中教授について教わったんです。年間三十七試合くらいありましたね、当時は。ですからバテなきゃどれかに当たるわけですよ。さすがに全試合に出るってことはなかったですけどね。
途中から塩谷育代プロも田中先生に師事していたんですが、彼女は短距離型。彼女と一緒にトレーニングをするようになりまして、二、三ヵ月すると、育ちゃんのトレパンのお尻がプクッと上がってきたのがよく分かる。金井は相変わらずペタッとしたお尻。同じトレーニングをやってるんですが、筋肉の質で効果が全然違う。育ちゃんのほうは距離がボンボン出てきて、俺を追い越しちゃったんです。置いていかれはしなかったけど。だけども中嶋くんやジャンボとやったら、いくら力んだって敵わない。それだったら、少々長いパットでも放り込むことを考えたほうが。
―そういった飛ばし屋たちを相手に勝てた秘密は。
金井 ショートゲーム。パットですよ、パット。
―パットももちろんあると思うんですが、飯能のあの狭いフェアウエーで、関東オープンを勝ったときの正確なフェードボールがすごく印象に残っています。
金井 琵琶湖の近くでやった日本オープン。予選のときにジャンボと一緒に回っていたらジャンボが「金井さん、あなたのドライバー、かわいい音するねえ、『ポコンッ』っていうねえ」って言うんですよ、ラウンド中ですよ。
大西 すごいこと言うねえ(笑)。
金井 ポコンとか言われて悔しいから次のホールで力入れて振るでしょ。そうすると曲がるでしょ。そんなときには「金井さん、飛ばなくて曲がると始末が悪いよ」なんて言われちゃったりするんですよ(笑)。
大西 漫才だなあ。
金井 だけど、その通りなんですよ。JGA(日本ゴルフ協会)主催の競技ってラフがきついじゃないですか。スライスしか打てない金井ですから、すべてスライスでフェアウエーをとらえていくしかない、力んで左行っちゃったんじゃ、馬鹿みたいなもんですよ。そういうふうにして、自分を知るということが大切だと思います。
大西 金井さんだけじゃなしにね、杉原さんは長いコースで勝っているんですよ。杉原さんは、アーノルド・パーマーに「素人がここに来ちゃいけないよ」って言われたくらいなんだから(笑)。
金井 ハワイアンオープンのとき、「ここはアマチュアの来るところじゃない」と言われて、選手証を見せたら、「オー、ソリー」なんて言われたことも(笑)。
大西 他の選手がアイアンで打つより、杉原さんがスプーン(三番ウッド)で打ったほうがピンに近かったりして。飛ばないことを逆手にとって勝ちましたからね。
金井 杉原さんより僕の方がちょっとだけ飛ぶから、杉原さんが五番ウッドで打って、ピンそばまでくるんですよ。その前から僕が五番アイアンで打ってグリーンを外すと「金井くん、ライでも悪かったんか?」って杉原さんが言ってくるんです。効くんですよ、これが(笑)。
大西 昔のマッチプレー時代なんかでもね、戸田藤一郎さんなんかが故意に相手の後ろに打ってね、先にセカンド打って、勝ったっていうね、戦略があるんですよね。
金井 昔の人は、わざとダフらしてフライヤーを起こさせて、ピンそばに寄せるとかね。
大西 ゴルフは先に打つ方がやっぱり有利だから。だからセカンドも先に打とうと思うと後ろにいなきゃいけない。金井さんもそれで大分得しているのかもしれない。金井さんより飛んでいる人はやりにくかったはずです。
金井 セカンドオナーの人は五十秒でしたっけ? 打つ時間。
佐渡 最初の人は五十秒、次は四十秒ですね。
金井 三番目に打つ人は、その間全部観察していられるんだから。だから、やっぱりゴルフは飛んだほうが楽なんですよ。でも先にピタリと寄せられたら嫌だけど。
大西 絶対に集中力は最初に打つほうがありますよ。人のを見ると、絶対につまらんことを考えてしまうんです。
金井 でも五番アイアンよりもピッチングウェッジで打ったほうがいいですよ(笑)。
大西 でもね金井さん、究極は自分のゴルフを作っていって、「俺はこれで勝負だ」というような、スコアメークの仕方ってあるじゃないですか。結局ゴルフって、どんなに飛ばしてもスコアメークしなければ勝てないんだから。最後はスコアメークですよ。
金井 でも飛ばしたい(笑)。
トレーニングの仕方を間違えていないか
日本と欧米のゴルフに対する考え方の差異について語る佐渡充高氏 |
金井 飛ばしたいんだけれども、どういうトレーニングメニューを組むかですよね。
大西 岡本綾子さんが言っていたけども、「ストレッチしかないわよ」って。とにかくトレーニングの中で体を、関節を柔らかくすることが一番大事だと。
佐渡 タイガー・ウッズもそうですね。丸山選手とタイガー選手はまったく別の方法でトレーニングをしているんです。丸山選手は筋力をつけるために重いウェートを上げているんだけど、かたやタイガーの場合は軽いウェートを数多くやる。一セット三十~五十回を三、四セットというふうに。だから、丸山選手は違う方向に行っているから、なんか心配だったんですけどね。
大西 今は他のスポーツのトレーニングもそうじゃないですか。軽いウェートで数多くやるというような。
金井 今は筋繊維の中の細かい部分を鍛えるというのもトレーニング方法の一つです。軽いウェートを使うトレーニングというのは、スピードを上げるという意味では非常に効果的です。
金井 丸山選手はトレーナーがついているの?
佐渡 以前はついていたんですが、今はついていないんですよ。アメリカの常識では、スイングコーチとそういうトレーナーと、それから心理学者というが一セットになってチームを組んでやるのが普通ですよね。
金井 それから食生活の管理、これをもう一人入れて四人だね。
大西 ゲーリー・プレーヤーなんかは肉食わないもんね。一回しゃぶしゃぶに連れていったことがあるんですけど「なんであなたたちの祖先の、健康にいい和食をやめて、こんなもん食うんだ」と言われましたよ。
金井 じゃあ、フィッシュ(魚)ですか?
大西 まあ、野菜中心にそうですね。肉はとにかく食わない。「俺は選手やめるまで肉は食わない」って。
金井 なんか、十七歳の頃からウエストが変わらないって言ってましたもんね。
大西 もう七十五歳なのにね。
柔軟なコースマネージメントの重要性
―話を飛距離とスコアメークに戻したいんですが、二〇〇三年、大洗GCのダイヤモンドカップで、トッド・ハミルトンが優勝したとき、四百七十ヤードぐらいの長いパー四の十七番でティショットを五番アインで打ったときは驚きましたね。
大西 全英オープンで勝つ前だったね。
―あんなに距離の長いパー四を、アイアンで、それもミドルアインでティショットするという発想は日本の選手にはないと思うんです。でもティショットはドライバーという固定観念は欧米の選手にはあまりないですよね。
大西 もっと極端なのは、タイガー・ウッズが全英オープンで優勝したときにティショットでドライバーを一回しか使わなかったことがあるでしょ。あれなんか見たら、飛距離でゴルフのスコアが決まるということはないというのがよく分かる。
佐渡 日本人のゴルフの考え方って、ドライバーの占める比重が結構大きい。
大西 私ところのコース(サイプレス)に昨年から山下和宏くんというツアープロが所属になったんだけど、「君の得意技は何?」って聞いたら、「百ヤードからのショットです」と。「君、いいもの持ってるね、困ったときには百ヤードというのを忘れないように」とアドバイスをしたんです。「ややこしいところに行ったら次は百ヤードのところに運べと。そこから二つで勝負しろ」と。そしたら、それを言った二日後の和歌山オープンで優勝したんです。そんなに飛ぶほうじゃない。ドライバーで二百七十~八十ヤードの間くらい。ちょっとフェード系。だけどね、小樽の大変なラフに入れたときでもね、「これはダメだ」と思うと、ちゃんと刻むんですよ。「あとはパットだからパットの練習しなきゃダメよ」と言ったんです。杉原さんなんかも毎日二時間くらいパットの練習をしていたからね。
―そう考えると、ゴルフを始めるときの、子供たちへのゴルフの教え方というか、指導法、コースの選択とか、いろいろなことがありますね。
大西 タイガー・ウッズが子供のとき、お父さんに連れていってもらって、グリーンに上がったら「逆を向いてみろ、お前がここまで来る攻め方は正しかったか?」という問いかけをする。そういうことを積み重ねて攻め方が良くなったということが本に書いてあったけど、スコアを作るということに関して、日本ではスコアを気にしてやるのが小さなゴルフで、ボカーンと遠くに飛ばすのが大きなゴルフという間違った認識があると思う。
―昨年の日本ツアー選手権(宍戸ヒルズ)はピッチィングウェッジで打ってもグリーンに乗せられないほどラフをのばしてましたね。それなのに四百ヤードちょっとの短いパー四でドライバーでラフに入れてボギーを叩く。どうしてもっと確実にフェアウエーをとらえられるクラブでティショットしないんだろう。
米ツアーを見ているとボギーの数が少ないですよ。日本の選手にボギーが多いのはコースマネージメントに問題がある。日本選手はどうしてドライバーにこだわるのかと思います。あんなことをしているから欧米のツアーに行ったら予選も通れないんだと。
大西 誰でもピンに近いところから打ちたいという気持ちはある。だけど、今のプロの人たちは二百ヤードを五番アイアンくらいで届く。それをどうして無理やり七番アイアンの距離まで持っていこうとするのか。
さっきのツーグリーンの問題に戻りたいんだけども、やっぱりツーグリーンでやっているうちは日本はダメだと思う。要するにドライバーショットの幅が三十ヤードないところがあってですよ、今ワングリーンでも七百平米のグリーンというのは大体横幅が三十ヤードくらいはあるわけですね。セカンドが三十ヤード幅に行けばなんとかグリーンの端っこに乗るわけなんですよ。もちろん、距離が合わなきゃいけないけど。日本選手の海外での戦い方を見ていると、パー五の攻め方がすごくまずい。オーガスタなんかを見ていてもパー五でボギーとかダブルボギー。どう考えたってもったいない。日本のツーグリーンのパー五は、距離の出る人だったら、二つあるグリーンの真ん中めがけてボカーンと打てばいいわけで、ほとんど確率的にバーディになるわけですよね。だけどもアメリカのパー五はグリーンを外したら池の中とかね。距離だけではどうにもならないようなレイアウトじゃないですか。
佐渡 そうですね。やはり、すごいリスクを背負わせますから、最初にものすごく考えさせられます。
大西 それを考えたらトム・カイトの八十ヤードのところにポンと打っておいて、そこから二つでいくというのが一番確率が高いということになる。悪くてパーという安定感のあるゴルフ。だからボギーの数が少ないんですよ。
ゴルフ場を生かすも殺すもセッティング次第
―シード権についてですが、アメリカは百二十五位まで、日本は七十位まで。それをアメリカ並みにという声があるのですが。
金井 最初のシード権は三十位まででしたよね。三十位っていうのはきつかった。ちょっとヘマしたらすぐに三十位以下ですよ。
大西 そりゃそうですよね。日本中で三十位なんだから。
金井 アメリカの百二十五位はどのくらい?
佐渡 八十万ドル以上は稼いでいますね。一億円弱ですね。
金井 でないとシード権がとれないから、ものすごく辛いものがあるでしょ。日本だとそこそこの選手なら二、三試合上位に食い込めばシードはほぼ確定しますからね。だから、日本ツアーももう少しシビアな方法を考えたらどうなんでしょうねえ。
大西 それとトーナメントコースは、いいレイアウトのコースを選び、なおかつワングリーンでやるとか、そういうことをまずやっていかないと技量は上がらない。
金井 そうですよね。思い出すと、ゴールデンバレー。誰かの言葉じゃないけど「作るアホウに、出るアホウ」。
大西 ドライバーを使えないというので、ボロクソに言って帰った。
金井 誰とは言わずにジャンボ、あっ言っちゃった(笑)。優勝は青木功で一オーバーくらいでしたよね。
大西 そのときの青木選手はね、アメリカに行く予定になっていたの。僕は「あの試合に出れば勝つチャンスがあるよ、だからアメリカやめてこっちに出たほうがいいよ」と言ったんです。
金井 あれはワングリーンなんてもんじゃない。ティショットがダメだったら池でしたからね。でも選手というのは、そういうコースで試合をしていると、攻め方も分かってプレッシャーもあまり感じなくなる。スコアもよくなり、全体のレベルも上ってくるわけです。台湾の淡水もワングリーン。最初にアジアサーキットに行ったときはえらく狭く感じた。そういうのが当たり前になるような感覚を与えないと、選手は強くならない。
大西 ツーグリーンでワーっと広がっているのを見ているのと、ワングリーンでキュッと絞まったのを見ているのとでは心理的に大分違うよね。
金井 そうです。圧迫感がね。だからどうやってフェアウエーに置いておこうかというところからはじめるんです。
―今度はフェアウエーの左右、真ん中というように。
大西 そうそう。フェアウエーもただのフェアウエーじゃなくて、右サイドか左サイドかというふうになりますよね。ついでに言うと、ゴルフのゼネラルルールにツーグリーンのルールはありません。国際化をしていく中では非常にまずい。もう一つは、今はゴルフ場の経営が非常に大変で、コスト管理をしていますよね。ツーグリーンよりワングリーンのほうがメンテナンス費用が大体二千万円くらい安いですよ。二つ維持するのと、一つ維持するのとの違いですから。グリーンキーパーも一つのグリーンに集中するようになりますしね。
金井 それは入場者数とは関係ないんですか?
大西 関係ないですね。もしあるとしたらピンの位置を七つ八つとれるようなレイアウトになっているかどうかということはあると思います。原則としてワングリーンのほうが有利な条件は多いですね。
―大西さんは「コースを生かすも殺すもセッティング次第」と常々おっしゃっていますね。
大西 ホールのロケーションというのをね。プロだけでなく、アマチュアが日頃月例やったり倶楽部競技をやりますよね。そういうときにほとんどのコースがグリーンキーパーに任せ切りでホールロケーションを切っているんですよ。なぜクラブの競技委員がときどき担当を変えて、ホールロケーションを切るようなことをしないんだろうと思います。セッティングの中でホールロケーションは非常に大事。いろいろなバリエーションがあるわけですから。それを同時にクラブ会員が楽しめるようにすればいい。
―この辺でみなさんから質問をお受けします。
質問 USオープンは最近パブリックコースで開催するようになってますがその意図は。また、チャンピオンシップのときと普通の営業のときのコースセッティングの違いを。
佐渡 基本的にUSGAが開催しているUSオープンというのは、これからはゴルフの一般大衆化を目指しているので、プライベートコースを多く使うということはないでしょうね。基本的には市営のコースとか、個人経営でもパブリックコースとかを使っていこうということだと思います。それからセッティングに関しては、昨年のトーリーパインズでも、一般には所謂バックティは使わせてないです。USGAが二年前にトーナメント用に新しいティインググラウンドを造りました。そこにはネットを張って、木の壁を造って、見えないようにして、一般のお客さんは入れないようにしてありました。それが撤収されて全米オープンのコースの全容が見えたのはほんの一週間前のことでした。ですから、同じコースであっても、全く同じようなセッティングで一般の方がプレーできるということはないですね。
大西 アメリカは、コースの八割がパブリックで、二割くらいしかメンバーシップはないんです。ゴルファーもメンバーシップゴルファーが二割くらいで、八割くらいはパブリックゴルファーです。その辺の状況をUSGAはよくつかんで、施策をとっていると思うんです。
質問 日米のトーナメントを比較する中でテレビ中継のやり方に違いがありますか。
佐渡 アメリカのゴルフの放送ポリシーというか、作り方は、まず基本的には勝負を見せるということですね。そのためにカメラの台数は基本的にバックナインをフォローできるだけの固定カメラと、それからトラブルになったときとか、選手の後ろ側からのショットを撮るためにハンディカメラが大体後ろから三組くらいつきます。大きな大会になるとクラブハウスのところに大きなクレーンを設置し、高い位置から、クラブハウスから練習場に行く選手を追ったり、十八番からクラブハウスに戻る選手を追ったりとか、プレー以外の部分を見せる工夫も最近ではなされていますね。それから、やはり勝負ですから人間を語るというところも面白いですね。
アメリカの中継の中で目立つのは、プレーだけでなく、プロフィールに関するコメントも多い。要するにこの選手はどんな選手で、どこの出身で、どの程度のプレーヤーなのか、そういうものを出しながら、その選手のゴルフストーリーといいますか、苦労話とか、キャラクターとか、特徴まで言っちゃうとか、そういうのを伝えることによって、見ている人も勝負に没頭できると思うんですよ。ですから、比較的プレーを追いがちな日本のゴルフ中継とは多少違うように思います。
ただ僕自身は基本的には出来事を中心に話していくという、事実を根拠に情報として出していって、そこからトーナメントを盛り上げようという話し方を心掛けています。この仕事を始めるときに、真っ先に言われたのが、所謂「場当たり的な印象論はやめてくれ」。要するに「根拠のないところで物事を語ってもらっても深みがない」と。
大西 佐渡さんのは、非常にいい情報がいっぱい入っていて聞きやすいんです。その要因の一つが、欧米は一人か二人での放送だけども、日本は最低でも二人いて、三人いることもある。あれでは静かな放送ができないですよね。
佐渡 そうですね。ゴルフって、トーナメントの会場に行かれたら分かると思うけど、「quiet!」っていうボードを掲げたりして、静寂がある、静かにしなきゃいけない部分の多いスポーツなんですよね。だから、僕らのポリシーとしてもアドレスに入ったら黙ろうと思いながら話をしているつもりなんですけども。やはりそういうことにも神経を使って作ると見ている方々も見やすいと思うし、むしろ無言のほうがピリッとした緊張感がみなぎることもある。大声を張り上げることが盛り上げることと誤解している人もいるようですが、ゴルフはちょっと違うんじゃないかと感じてます。
大西 私もまったく同感です。
精神面を強くするためのコースづくりを
質問 コース設計の加藤俊輔ですが、ゴルフというスポーツを伸ばそうとするときに、一番の近道はやはりプロゴルファーが世界で良い成績を残すこと。そういう点で考えると、精神的な部分を育てられるようなコース造りが一番大切なことだと思うけど、それが今の日本で一番欠けていることだと思います。金井さんのいるプロの世界、こういうところがイニシアティブをとって一般の人や組織に働きかけていけば、精神的な部分を鍛えるためのコースづくりは可能だと思いますが。
金井 大事なことですね、精神的なものというのはハングリーさも含めて。青木さんの話になっちゃうんですけども、青木さんが外国に行ったときには、外国のプロが日本に来て賞金をかっさらっていっちゃう時代。「だから俺はアメリカに行って一円でも多くアメリカの銭をとってくるよ」と口癖のように言っていました。今の選手はどちらかというと、そういうハングリー精神じゃなくて、キレイごとでやっているように思う。プロアマ戦を見ていても、自分本位の練習をしているプロが何人か見受けられます。この辺のところを指摘したり、「もっとアマチュアの人を大事にしなきゃいけないよ」と言っていますが。日本では一流プロになると、レッスン依頼とか、レッスン記事の掲載依頼のときに、すごく皆さん下手に出ているようなところがある。外国の場合はプロであろうと誰であろうと話をするときは同じレベル。だからこういうところを改善していって、自分はなぜ今こういう立場にいるのかというところをトッププレーヤーに知らしめる必要がある。
質問 精神的なことももちろん大事なんですけども、海外で通用する強い日本選手を育てるためにはタフなコースを造る必要がありませんか?
金井 おっしゃるとおりです。大西さんご指摘のように、アメリカのコースはワングリーンの中にもアンジュレーションがいっぱいありますね、例えば、八百平米ある中の百~二百平米くらいしか使えないようなコースを造れば選手は絶対に強くなると思います。
質問 そのために日本ではどういう組織が動いたらいいと思いますか?
金井 それはPGAが率先して参加させていただくことだと思います。
質問 それはとても大事なことです。ゴルフ場がアマチュア中心になって、はっきりいって金稼ぎが目的ですよね。私はコース設計に携わっていますが、タフなコースということで三百ヤードのIP(Intersect Point = 2、3打目を有利に打てるコース上の目標地点)を提唱しています。とにかく、プロが強くなるためには、精神的な部分で普段からタフなコースに慣れるということはとても大事なことだと思います。そのときにプロが中心になって協力してもらうというような具体的な追い方をしないと、日本は良くならないと思います。そのときに「いいでしょう。協力しましょう」という体制はプロ協会にありますか。
金井 あります。
質問 そのときに佐渡さんなどからアメリカのお話をしていただいて、日本はアメリカから十五年くらい遅れていると思うので、ぜひ知恵を貸してもらえればと思います。
佐渡 さすがにIPが三百というのはビックリしましたけども、それくらいの荒療治をし、それぐらいの厳しいコースを造っていかなければ、この現状は打破できないのかなと思います。これはあくまで理想論ですけども、スウェーデンにしても、オーストラリアにしても、ゴルフに対して国がバックアップするような態勢を作っていて、ゴルフを盛んにすることによって、経済を活性化させようというプロジェクトを十数年前から行っているんですね。これが見事に成功したんです。日本でもそういうシステムをとることができれば、劇的に変わるのになあと。そういう国では小学校、中学校、高校の体育の科目には、ちゃんとゴルフが入っているんですよ。だからやろうと思ったら学校レベルにおいて、それを必須項目にすればいつもできるわけですよ。でも日本では環境がそれをなかなか許さない。ゴルフ場が少ないし、お金がかかるし。ただ、そういうようなシステムになってくれば日本も一気に変われるんじゃないでしょうか。
大西 最近ゴルフの見方というのは、社会的に見直されているというか、良くなってきていると思うんですよ。一つは環境に対して。四百六十万トンのCO2が出ているという数字が出ましたけども、これは日本全体の十%にあたるわけですね。それと、ゴルフには第一条にエチケットがあって、その部分の精神というのをゴルフをやらない人に分かってもらうというのが、遠回りのようでゴルフが飛躍する早道だと思いますね。
質問 私の友人で十回ぐらいクラチャンを獲っているようなゴルフファーが、アメリカに行ってプレーをすると、「みんなルールどおりにプレーしている」と感心して帰ってきます。日本ではいろいろなルールを勝手に作っていますよね。例えば六インチプレースとか、プレイング四とか。
大西 プレイング四というのは、完全にアゲインストルールです。ゴルフのゼネラルルールでペナルティを払えばホールに近づけるというルールは一つもありません。だからトーナメントコースを選ぶときに、日頃そういうことをやっているコースは外すとかね。そういうのはJGTO(日本ゴルフツアー機構)がトーナメント運営のためのゴルフ場選びというのをキチッとしていくのが一番いい方法だと思います。
質問 一般アマチュアでも、毎週コースに行っている人なんかは向上したくて行っているわけですね。そうすると、やはりアマチュアのためのコースセッティングも大事だと思うんです。以前、岡本綾子さんが七番アイアンで何メートル、五番アイアンで何メートル以内に止まるグリーンが理想的だというようなことを言ってたことがありますが、ハンディ七、八程度の腕の人が打ったときに止まるグリーンのつくり方というのをどのようにお考えでしょうか?
大西 今、非常に重要なことを言われたんですけども、やはりプロトーナメントだけにコースセッティングが重要なわけではなくて、アベレージゴルファーに楽しんでもらうためにはそういう人たちの技量に合ったフェアウエーの幅をとるとか、ラフをあまり深くしないとか、それから先ほどグリーンのことも言われたけど、グリーンもプロが使うときほど硬くしないとか、ある程度止まるようにするとか、そういうセッティングをすることは非常に大事なことだと思います。
それとホールロケーションですけど、少しでも面白くするにはどういうホールセッティングにしたらいいのかというようなことを考えるべきです。例えばツアー機構が今週のトーナメントはAさんがホールをセットしますとか、今週はBさんがセットしましたというふうに責任者の名前を出したらどうか。その意味は一般ゴルファーが、誰がホールのセッティングをしているのか、そんなにホールセッティングって大事なのかとかね。すごい所にピンが切ってあるけど、あの人はああいうところにピンを切るんだとか、最終日はどうで、一日目はどうだったとかね。
日本ではホールセッティングは、全員が同じピンの位置でやるんだから、どこに切ろうがフェアだと言うけど、平等だけど公平じゃない。それは欧米の選手から見るとアンフェアだということになる。やはり、上手い人が技術を駆使すればそれだけの結果が出て、下手な人がやれば結果が出ないようなセッティングがフェアなんです。
例えば池越えのグリーンがあったとして、その日は強いフォローの風、ピンは池から四ヤードくらいのところに切ってある。これは誰が打ったって寄らない。上手い人も下手な人も寄らないようなピンの位置が、平等だからフェアかというと違いますよね。やはり上手な人が力を発揮できるような状況にするということが大事なんです。コースをマネジメントする人がそういうことをよく考えてほしい。来場する方に楽しんでもらうためには、コースがどんな準備をしたらいいかということをもっと真剣に考えるべきです。
―時間がアッという間に過ぎたような気がします。本日はありがとうございました。
司会 = JGJA会長 菅野徳雄