COR規制に見る用具基準設定への疑問 ~ 河北 俊正~

〝飛ぶドライバー〟は使っていいのか?悪いのか?ドライバーヘッドの反発係数規制問題について考える
世界にはゴルフの総本山が2つある。R&AとUSGAである。この2つの権威が世界のゴルフの道筋を決定し、各国、各地域のゴルフ協会がそれに従うーーというのがこれまでの慣例である。しかし2つの権威が違った指針を定めたらどうするか? 立前としては、例えば日本のJGAならR&Aの傘下に属するので、R&Aの指針に従うというところに落ち着くのが常である。こうした状況下で一連の「ドライバーヘッドの反発係数規制問題」が巻き起こった。当初USGAが0・830を超える反発係数を持ったクラブはルール不適合。かたやR&Aではおかまいなし! それが突然総本山同志が協議し「こうしましょ」と統一ルールを発表。我々を含め下々のゴルファーは「そうなったらどうなるの?」というのが偽らざる思いではないだろうか。また総本山同志で決まった合意も、実は良く分からない。そこでこの問題に詳しいジャーナリスト3名に、一般ゴルファーの不安や不満を解消すべく健筆を奮ってもらった。


 

COR規制に見る用具基準設定への疑問 ~河北 俊正~

1998年の6月、USGAがドライバーの「スプリング効果(COR)規制」を発案。その後、米国ゴルフ界で実行に移されて以来、国内のゴルフ専門週刊誌の企画で、3度にわたり、この規制の是非を問う座談会が催され、その司会を担当させて頂いた。
1度目は米国でこの規制が実行に移され、規則に不適合となったドライバーのリストが公表された直後。2度目は、北米大陸以外のゴルフルールをつかさどるR&Aが、米国に同調せず規制を行わぬ事を発表した後。そして3度目が、今回、両者がこの問題に妥協点を見いだしたとして共同声明を発表した後。出席者はいずれもこの問題に関係の深いクラブメーカー、クラブ設計者、プロゴルファー、そしてゴルフ評論家の方々だった。
この3回の座談会を通して座談会の出席者が指摘した「スプリング規制」に関する疑問と問題点は、
①この規制が、USGAのいうように「飛びすぎによるゴルフのゲームとしての危機の回避」なら、アベレージゴルファーをも対象にするのは行き過ぎではないか。
②スプリング効果は飛びの要素の一部に過ぎないのに、何故この問題だけを殊更取り上げて規制しようとするのか。
③何故、USGAとR&Aは共同歩調を取れないのか。国際的なゴルフゲームにおいて世界に2つのルールが存在することは極めておかしい。
④今回、両者が合意して規制に踏み切るにしても、実際に一般のメーカーが測定出来る方法でなければ実用性がない。また、リストも不適合リストではなく、ボール同様適合リストにすべきだ。
などであった。

実際に、古今東西ゴルファーの最大の望みは「飛距離の増大」であり、ゴルフの長い歴史の中で、ゴルフ用具メーカーが、そしてゴルファー自身が、いかに知恵を絞ってその望みを叶えようとしてきたかは、世界に於けるゴルフ関連の実用新案や特許の多さ、ゴルフミュージアム(USGA)に数多く保管されている違反クラブ類が証明している。
また、これに対して競技としてのゴルフを守る立場の協会サイドが、これを規制しようとする動きも今始まったことではない。
以前ある米国ゴルフ雑誌の記事に、USGAとR&Aの用具規制に関する意見の不一致にしても、百年もの昔から「パターの形状問題」、「アイアンの溝問題」、「スチールシャフト採用問題」、「ボールのサイズ問題」など繰り返し起きており、その都度、時が解決してきた事実があるので、今度の問題もいずれ収まるだろうとの予想がされていた。
確かにその通りで、今度のケースも、歴史が示してきた通り、USGAとR&Aの「妥協」で決着を見そうな様子だ。
しかし、過去のいずれの例を見ても、問題が解決するまでの過程で、一部のメーカーが不当に利益を上げたり、損をしたり、その度にゴルファーが振り回されたりしてきたことも事実のようだ。
今回の両者合意による来年からの規制案も、何も知らずにR&A基準に則りクラブ開発を進めてきた、日本のメーカーにとっては寝耳に水の不当なもので、現在抗議中と聞く(この稿が印刷される頃にはこの問題も解決していることを望むが……)。

このようなゴルフ用具の規制強化は、ゴルフの競技性を維持するためのルールとして必要なこと、当然のこととは思うが、かたやハンディキャップシステムにより老若男女が一緒に楽しめるのが特徴のゴルフ、そのゴルファーのマジョリティーをしめるエンジョイゴルファーにとって、果たしてこれ以上厳しく適用することが必要なのだろうか。また、一部の限られた人たちがプレーしてきた時代と違い、ゴルフがここまで大衆化してきたのに、協会サイドは過去と同じ主張を繰り返すだけでいいのだろうか。
現在、日本も米国も、ゴルフ産業界はゴルフ人口の減少傾向に深刻に悩んでおり、ゴルファー拡大のためジュニア対策、シニア対策、女性対策などが提唱され、着実に実行に移されているが、一方で、一般ゴルファーのゴルフの楽しみを奪うような行き過ぎた用具規制強化は、本当にゴルフのためになるのかどうか疑問を感じてしまう。
今や世界中を舞台にして競われているトッププロのゴルフツアーが、コースのセッティング同様、厳しい世界統一条件下で行われることは当然であると同時に、一方では誰でもが楽しめるような用具基準への配慮があってもおかしくないのではないだろうか。
今後も更に、USGAやR&Aでは、ドライバーの「ヘッド容積」、「クラブ長さ」などの規制も、相次いで検討されているそうだが、競技ルールをつかさどる協会、用具を提供するメーカー、そしてゴルファー自身が、お互いに協力して、今までの慣習にとらわれず、時代の常識に照らしながら、真にゴルフ発展のためになる用具基準の方向性を見いだすことを期待している。

ドライバーの反発係数問題に関する一連の経過 – 1

1998年 6月
USGAが全米オープン開催地のサンフランシスコ・オリンピックCでクラブフェースのスプリング効果について「反発係数の測定及び具体的数値を示す計画がある」と発表。
7月
R&Aが「USGAの提案を推奨する」。日本メーカーに対してロフト角15度以下のメタルウッド全サンプルを各2個ずつR&Aへ送付することを要求。
7月
USGAが叩き台を公表。「反発係数が0.822以下もしくは誤差を含め0.830以下を合格としたい」案をメーカーに打診。
9月
USGAがメーカー、報道約150名を集め協会本部で公聴会。ダイワ精工、カーステン、タイトリスト、テーラーメイドの4社が意見表明。テーラーメイド以外の3社が強硬に反対。キャロウェイは「意味がない」と欠席。この時、事実上の導入が決定。
10月
R&Aが来日、英国大使館で関係者約60名を集め公聴会。「早ければ半年後に途中経過が説明できるだろう」。
1999年 11月
R&Aが再来日、都内会場に関係者約70名を集め、「USGAと違った方法で研究する。2001年1月までに結論を出すが、そのため2000年末まで現行規則を適用する」。
2000年 4月
キャロウェイが「ERC」を日本で発売。
4月
USGAが違反クラブ10機種/仕様を公表。「カレラ」「ERC」(ロフト11度仕様)以外の7機種が日本製。
4月
RCGA(カナダゴルフ協会)が同協会主催及び関連競技で「ERC」の全面使用禁止。カナダはUSGA管轄ではないが隣国のため紛らわしいというのが理由。

ドライバーの反発係数問題に関する一連の経過 – 2

2000年 5月
R&Aが規制案発表。ヘッド各部の厚みを超音波測定して表面塗装を含む厚み規制を設け、同年10月1日からの実施を示唆(規制値は未発表)。
5月
キャロウェイがRCGAをカリフォルニア州中部連邦地裁へ提訴。「違反スペック以外の禁止は営業妨害に当たる」。
5月
USGAが「ERC」のロフト9度、10度、12度も違反だと追加公表。RCGAも支援を表明した。この時「今後は週単位で公表する考えがある」。
6月
USGAが「違反クラブの公表に関するルール」を公表。誤差を含め0.838以上のモデルがあった場合、メーカーに対しその機種の全ロフト別仕様の提出を求め、測定終了まで全機種を違反リストに掲載する。0.830以上0.838未満は同一シリーズの未提出仕様が違反クラブと断定されるまで掲載を見送る。クラブ提出を促す狙い。
6月
JGGAがR&Aに質問状。「10月1日実施は困難」「肉厚規制は特定メーカー(ヤマハ)を利するため問題が生じる」等。
8月
R&Aが「10月1日実施は困難かもしれず、規制の必要を根底から見直す用意がある」と打診。
9月
R&Aがスプリング効果規制断念。「研究の結果、高い反発係数が認められたが、ゴルフゲームに有害とは考えられない」。
9月
R&Aの決定にUSGAが「我々とは哲学が違う」と反発。キャロウェイ、タイトリストが「R&Aの決断は嬉しく思う」――。
10月
キャロウェイが「ERCⅡ」の米国及び世界発売を発表。
11月
R&Aが来日して、数値規制見送りの経過説明行う。

ドライバーの反発係数問題に関する一連の経過 – 3

2000年 12月
USGAが「違反クラブ使用者の提出ハンディを認めない」と発表。
2001年 1月
ミズノが「COR」の商標権取得。
7月
対USGAの急先鋒、エリー・キャロウェイ氏死去。
12月
USGAがヘッド体積385cc、クラブ長47インチまでの新規制案示唆。
2002年 1月
USGAがヘッド体積460cc+10ccへの譲歩案打診。
2月
R&AがUSGAのヘッド体積規制案について「我々は独自路線を進むが今年7月の全英オープンで500ccを使う選手がいても失格にはならないだろう」。
2月
USPGAツアーが第三者による規制統一機関設置を示唆。
4月
USGA、R&Aが非公式に「規制統一新機関の必要はない」。
5月
USGAとR&Aが統一に向けて共同宣言を発表。「アマチュアゴルファーは2003年1月から5年間、0.860を上限とし、プロ競技に関しては競技委員会が0.830以下と定める権利がある。そして、2008年1月からはプロもアマチュアも0.830以下に統一」と規制案を公表。

※『月刊ゴルフ用品界』6月号より