〝飛ぶドライバー〟は使っていいのか?悪いのか?ドライバーヘッドの反発係数規制問題について考える
世界にはゴルフの総本山が2つある。R&AとUSGAである。この2つの権威が世界のゴルフの道筋を決定し、各国、各地域のゴルフ協会がそれに従うーーというのがこれまでの慣例である。しかし2つの権威が違った指針を定めたらどうするか? 立前としては、例えば日本のJGAならR&Aの傘下に属するので、R&Aの指針に従うというところに落ち着くのが常である。こうした状況下で一連の「ドライバーヘッドの反発係数規制問題」が巻き起こった。当初USGAが0・830を超える反発係数を持ったクラブはルール不適合。かたやR&Aではおかまいなし! それが突然総本山同志が協議し「こうしましょ」と統一ルールを発表。我々を含め下々のゴルファーは「そうなったらどうなるの?」というのが偽らざる思いではないだろうか。また総本山同志で決まった合意も、実は良く分からない。そこでこの問題に詳しいジャーナリスト3名に、一般ゴルファーの不安や不満を解消すべく健筆を奮ってもらった。
ドライバーのスプリング効果問題 ~マイク 青木~
英国のロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ(R&A)と米国ゴルフ協会(USGA)は、去る5月9日、3年半にわたる意見の不一致の末に、いわゆる「チタンドライバーのスプリング効果問題」に関する規制について合意に達したことを発表した。
■合意内容
主な合意内容は次の通り。
①2003年1月1日から2007年12月31日までは、CORリミット(反発係数の上限値)を0・860とする。
②2003年1月1日から2007年12月31日までは、主に、大変腕のいいプレーヤーたちが参加する競技においては、委員会が、CORリミットを0・830とする旨を競技の条件の中に規定できることとする。
③2008年1月1日以降は、すべてのレベルのプレーにおいて、CORリミットは0・830とする。
④反発係数(COR)のテストは、当面、USGA方式を採用する。しかしながら、両団体は、もっと簡単に計測できる装置の早期開発に努める。
■COR(反発係数)
反発係数(Coefficient of Restitution)とは、2つの物体がぶつかった時のエネルギー移動の能率を示す数値をいう。
現在USGAが採用している計測方法は、固定したドライバーヘッドのフェースに高速で飛ばした球をぶつけるやり方だ。
仮に、時速100マイルの球をクラブフェースにぶつけた時の球の初速が時速85マイルであった場合は、反発係数が0・850ということになる。
一昔前までの主役であったパーシモンヘッドのドライバーの場合は、反発係数が0・750ぐらいだという。
今年の5月9日以前にUSGAに持ち込まれて計測を受けたメタルドライバーの場合、反発係数の最大数値が0・860を超えるものはなかったという。
■合意内容の解説
第1項目については、USGAがCORリミット(反発係数上限値)をこの3年半の間適用してきた0・830から0・860にまで譲歩したことになり、一方、今まで反発係数に上限値を設けてこなかったR&Aは初めて0・860でCORリミットを採用することに譲歩したことになる。
前述の如く、USGAが行ってきたテストでは、反発係数が0・860を超えるドライバーは皆無だったので、この結果、今までUSGAによってスプリング効果違反クラブの烙印を押されていたチタンドライバー(例えば、キャロウエイのERCⅡドライバーなど)はすべていったん適合クラブとみなされることになる。
ただし、USGAとR&Aは、多くのプロ(=大変腕のいいプレーヤーたち)が参加するトーナメントである傘下のプロ競技においては、委員会が、CORリミットを0・830とすることを競技の条件の中に規定することが既定の事実であることを公表している。
そして、更に、両団体は、多くのプロたちが参加する世界中の競技に対して、これと同じような競技の条件を採用することを勧めている。
この結果、来年以降は、米国やメキシコ、カナダの諸国におけるプロ競技においては、今まで通りCORリミットが0・830までのドライバーしか使えないほか、ヨーロッパPGAツアーのトーナメントにおいても、全英オープンを初めとするすべての競技において0・830までのドライバーしか使えなくなる。
R&A傘下にある日本は、R&AとUSGAの決定に従うことになる。
第3項目によれば、2008年1月1日以降は、反発係数が0・830を超えるドライバーはすべて不適合クラブとなる。
言い換えれば、現在、USGAによってスプリング効果違反クラブの烙印を押されているドライバーは、すべて反発係数が0・830以上のものばかりなので、これらのドライバーは2008年以降ラウンド中に携帯することが許されなくなる。
〔注=不適合クラブを携帯してラウンドをスタートしたプレーヤーは、そのラウンド中に例え1度もその不適合クラブを使用しなかったとしても、競技失格となる〕
■ゴルファーの腕の問題
今回の合意では、ゴルファーを大変腕のいいプレーヤーとそれほどではないプレーヤーの2種類に分けている。
しかしながら、現段階では、R&AもUSGAも、その線引きをどこに置くかについて討議中であって、明らかにされてはいない。
この合意内容がそのままの形で発効した場合、プロはすべて0・830以内の反発係数のドライバーを使わなければならないことは明らかにされている。なぜなら、彼らは、大変腕のいいプレーヤーたちだからだ。
問題は、一部の大変腕のいいアマチュアたちの扱いである。
プロ並の大変腕のいいプレーヤーたちが大勢参戦する大きなアマチュア競技の全米アマや全英アマの場合、プロ競技並に反発係数0・830までのドライバーの使用に限定するのか。
この件については、近いうちに、最終の合意内容が発表される時点で明らかにされることとなろう。
■ゴルフ用具と規則
1909年に、R&Aが史上初めてクラブに関する規則を制定した際には、ゴルフクラブは、「スプリングのような仕組みを持ったものであってはならない」と、当初から、「スプリング効果のあるゴルフクラブは認められない」ということが高らかに宣言されていた。
しかし、それから約80年が経って、反発係数の大きいスプリング効果の顕著なチタンドライバーが出現するに至った。
この数年間、ドライバーのスプリング効果の問題が重要視されてきた背景には、前記の1909年のクラブに関する規則の中に「スプリング効果のあるクラブは認められない」とする規定があるからというよりは、このまま飛距離を規制しないでいたら、現存するゴルフコースのほとんどがやがて短か過ぎて使い物にならなくなってしまうという危惧があるためだ。
すると、「それなら、各ホールの距離を長くすればいいではないか」という声が聞こえてきそうだが、そんなことをし続けたら、ゴルフ場造りのコストは高騰するばかりだし、その結果グリーンフィは割高になることは必定だし、ラウンドの時間は長くなるし、ひとつとして良いことはないといわれる。
メーカーは、反発係数0・860を超えるドライバーを作ることはできよう。いや、巷には、もうそのようなクラブが出来上がっているという噂が飛び交っている。
フランク・トーマス元USGA技術部長によれば、球とクラブによる飛距離の問題を規制しないで放置したとしても、クラブで10ヤード、球で5ヤード飛距離を伸ばせるのが限度だという。
ならば、たかが15ヤードのために規制するのもどうかという気もする。
球とクラブの飛距離に関する規制は設けることなく、コースも長くしないで、300ヤードから350ヤードの球の落下地点のフェアウェイを極端に狭くして、その上、その両側にはヘビーラフやウォーターハザードを設けたりすれば済むことではないのだろうか。
マイク青木(本名・青木実)
1936年生まれ。59年に中央大学法学部を卒業。65年から、ジャーナリストとして渡米し、足かけ20年間ニューヨークに在住。85年には米国ゴルフ協会と全米プロゴルフ協会共催のゴルフルール講習会を日本人として初めて受講。その後帰国し、ゴルフ評論家、ルール研究家として活躍する。ゴルフトゥデイ、日刊ゲンダイなどで連載中。