40年間のサラリーマン生活のほとんどをゴルフ業界に身を置いてきた者として、責任の一端を感じているのであるが、近年日本のゴルフトーナメントの低迷、弱体化に危機感を持つのは私だけではない。私自身、長年ゴルフ用品の企画、開発に携わり、なかでもウエアについては1973年のオイルショックの直後に担当。『ウエアビジネスは止めたほうがよい』とする親会社の強い意向の中でのスタートであった。ブランド作りは「レクスター」に始まり、「パラディーゾ」「J’s」「エピキュール」などを世に送り出した。
今年6月の全米オープンでは丸山茂樹プロが、女子ツアーでは宮里藍プロが「パラディーゾ」を着用し大活躍。テレビの画面はもとより新聞、雑誌に大きく取り上げられた。10数年前に企画開発したブランドが、現在も市場に受け入れられていることは、『開発時期にしっかり吟味されたブランドは永遠であり、会社の財産である』とする私の考えを立証していると捉えている。
ウエアに限らず、物作りの基本は「誰に向けての商品企画なのか」を明確にすることが重要である。色、柄、デザイン、スタイル、価格そしてシーズンのテーマを決定していく。これを商品企画のコンセプト(基本構想)と呼んでいる。
前置きが長くなったが、日本のゴルフトーナメントは「誰を主役」に考え、企画されているのだろう。つまり、トーナメントの企画運営は物作りと同じで、コンセプトが基本になければならないと考えている次第である。
私見ではあるが、一番の主役はトーナメントの会場に足を運んで下さる観客(ギャラリー)であり、テレビ中継の視聴者、世の中のゴルフファンである。
しかし、トーナメントの現場は、主役のギャラリーは二の次で、主催者や出場選手が第一という場面が多い。駐車場(ギャラリー用が一番遠い)、トイレ(数が少ない)など。大会の関係者が優先されるのは駄目だといっているわけではないが、あくまでも主役はギャラリーである。大会のコンセプトを「お客様が第一」としているトーナメントはどれだけあるだろう。
仕事柄、ウエアを売る現場の話や、売り場作りについての基本を記事に執筆しているが、「顧客第一主義」「顧客第二主義」といわれるように「お客様に顔を向けた店作り」「お客様に顔を向けた物作り」を実践しなければ必ずといっていいほど、倒産に至った例を数多く見てきているのである。
毎週、テレビ中継で、十年一日のように、プロに対する賞金や賞品等々、視聴者不在のアナウンスを相変わらず長々と流している無神経さ。これらを一新して、本来の在るべきゴルフトーナメントの姿を立ち上げない限り再活性化は難しい。日本の政治ではないがゴルフ業界の構造改革にJGJA会員として微力ながら活動できれば幸甚である。
五十嵐 誠(いがらし まこと)
1941年生まれ。ブリヂストンタイヤ、ブリヂストンスポーツにて35年にわたり、ゴルフボール、ウエア、用品の企画開発業務に携わり、数多くの人気ブランドを企画開発。現在、月刊「ゴルフ用品界」にコラムを連載中