JGJAは2023年12月11日に、生物多様性保護に取り組む神奈川・箱根カントリー倶楽部(CC)で会員12人が参加して勉強会を実施した。
同CCは、一般社団法人・いきもの共生事業推進協議会(ABINC=エイビンク)の「いきもの共生事業所」としていちはやく生物多様性保全に取り組む神奈川県のトライアル認証を、川崎国際生田緑地ゴルフ場とともに受けている。また、赤星四郎設計のゴルフ場として歴史のあるコースでもある。
同CCでプレーした後、クラブハウス内でコースの歴史と、生物多様性保護、環境保護の取り組みについて、金澤仁史総支配人から話を聞き、質疑応答を行った。同支配人作成のプレゼン資料から抜粋する
箱根CCは1954年(昭和29)に、現在のインコースがつくられ、翌55年にアウトコースが完成した。設計者の赤星四郎が「在るがままの自然の中に戦略性にあふれたコースレイアウト」というコンセプトで箱根・仙石原の地につくられた。
赤星四郎はご存じの通り、弟の六郎とともに日本のゴルフ黎明期を支えたアマチュアゴルファーの1人で、1926年日本アマを制している。コース設計にも定評があり、霞が関、程ヶ谷、富士、藤沢、芥屋など名コースを手掛けている。
数十万年前の古箱根山の火山噴火、カルデラ湖の形成と湿地、草原化によって生まれた地形をそのまま生かした設計になっている。コースは1、10番で打ち下ろしていくとほぼ平坦になっている。
開場当時はほとんど樹木はなく、30年後に「成長したら売れるだろう」とスギ、ヒノキを植樹したところ、暗い林となり、生物の生息環境が悪化したという。そこで1994年に同CCの「環境絵図」を作成。仙石原本来の姿に戻すべく、針葉樹の伐採を行い、箱根本来の樹木に囲まれるようになり、生物の生息環境もよくなっていった。
2014年に同CCでは「動植物調査報告書」を作成、発行した。その時の調査によると、植物439種、哺乳類13種、鳥類90種、爬虫類11種、両生類7種、昆虫類993種、魚類13種、水性動物6種などが確認されている。神奈川県が絶滅の恐れがあると選定している植物19種、動物92種もその中に確認されている。「その後継続調査を行って、100種ぐらい増えています」と金澤支配人は話した。
コース内を飛び交う「清流の宝石」とも称されるカワセミは、同CCのシンボルにもなっているという。
ただ、環境はやはり人間の手で「管理」しなければ保全するのは難しい。「草原はほっておくとすぐ木が生えてきます」と手入れが欠かせない。野草もポッドで栽培して自然に戻す取り組みも行っている。
大事なのは水質管理で、2023年6月の水質調査では、全リン量は雨並み、全窒素量は水道水基準を下回り、溶存酸素濃度は魚介類の生息に適した基準になっている。「ゴルフ場に入ってくる水と出ていく水の水質が同等になっている」と、ゴルフ場内を流れる早川ほか小河川の水が汚れないように注意を払っているという。
管理に当っているのは社員で、コース管理に20人を置いているという。通常、4,5人から10人に満たない程度なので、いかに自然の保全を含めたコース管理に力を入れているかがわかる。コース内の環境を守るためシカやイノシシの侵入を防ぐ高さ1.9mのフェンスも社員が設置したという。
こうした取り組みにも課題があり、肥料は2002年に年間39トンをピークに堆肥への切り替えなどで年間8トンに削減。今も自然由来のものに移行しつつあるという。近年の気候変動もあって雑草の繁殖や病虫害の発生が増加しているそうで、除草剤、殺虫剤については魚毒性の低いものを選択し、そうした害の早期発見に努めるとともに、プレー中にコース内を歩いているキャディーさんが雑草をとっているシーンも見かけた。
ABINCトライアル認証については「我々の自然保全の取り組みの後から来たもの」といい、これから本認証を受ける予定という。
ゴルフ場といえば、その開発に伴う環境破壊や農薬問題など、自然環境への「害」がクローズアップされてきた。ただ、開発当初は山林を切り開いていたのも事実だが、今ではそんなゴルフ場の周りがすっかり住宅や工場に囲まれているという光景も目に付く。その中で緑が残り、生き物が住むゴルフ場が、今度は自然を守る存在になっていくかもしれない。しっかりと環境保全の努力をすることが前提だが、日本全国のゴルフ場にそんな可能性を感じた勉強会だった。
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