用具の進化に対するゴルフ協会用具性能規制への提案 性能アップと規制強化のいたちごっこに終止符を  ~河北 俊正~

ゴルフジャーナリストからの『提言』- 2006年ゴルフ界へ –

提言!苦言!証言!「2006年日本のゴルフ界を点検する」ゴルフ界の進歩と飛躍に必要なものは何か?
日本のゴルフ界も一時の「すべてがドン底」という状態から抜け出し、明るい話題や、その予兆を感じさせるようなニュースが時々報じられるようになった。そこで、当協会の会員が、この流れをさらに加速させるための提言!逆流させないための苦言!そしてこれまであまり報道されてこなかった証言!を、各自テーマを絞って執筆した。


 

ルール適合クラブリストをUSGAとR&Aが公表

シーズンが終わりに近づく頃、ゴルフ報道関係者のもとには、多くのゴルフ用品メーカーから、翌年の新製品ゴルフ用具の発表会や試打会の案内が殺到してくる…と、今年もそこまでは例年と全く変わらないのだが、いつもと少し様相が変わっている点がある。それというのは、ゴルフ界の多くの人が関心を寄せている例の「ドライバーフェースのスプリング効果(SLE)規制」が全面的にゴルフルールとして実施される2008年が近づいて、これに対するゴルフクラブメーカーが今後の企業姿勢を明らかにし、2006年度の新製品にその考えを表現しだしたからだ。

このルールによる規制は、既にUSGAが管轄する米国やメキシコでは2000年から採用されているが、日本を含む世界の残りの地域を管轄するR&Aは、測定方法の確立及び過渡期の混乱を避ける意味で、全面的な採用を2008年からと決定、それまではプロや上級者が競うトップクラスでの競技に、競技ルールとして採用することが出来ると、このルール適用の経過措置を設定した。従ってUSGAとR&A両協会が関わる世界のツアー競技、世界各国のナショナルオープンでは既に適用されてきている。

これに対して、JGAは2005年初め、来年(2006年)より、同協会が主催する競技については、その競技条件としてこのルールの採用を発表。理由は2008年度ゴルフ規則への採用にスムースに移行するためで、クラブ競技や一般アマチュア競技に条件適用を強制するものではないと説明している。

しかし、このニュースが業界に伝わると、これまではメーカーのセールスポイントとして使われた「2008年からはルール不適合となる〈協会基準値を上回る高反発フェースドライバー〉」についての市場での対応が俄に脚光を浴びてきた。加えて2005年10月、USGAとR&Aが、それまでは不適合リストしか公表していなかったものを、テストに合格したルール適合クラブのリストをウェブサイトに公開するに至って、ゴルファーは勿論、メーカー、ショップも俄然現実的な対応に迫られてきている。

メーカーの対応はいろいろ

この状況下、これまでに2006年度の方針及び新製品を発表した国産、外資系大手クラブメーカーの対応は、小泉首相流表現ではないが、それこそ「いろいろ」となっている。

各社ともに、当然の事ながら「2008年度から適用されるルールは遵守する」と表明しながらも、来年からそこに至るまでの間を、企業によっては、「2006年度から一切2008年度ルール不適合品は発売しない」又は「2006年度以降も2007年までは高反発フェースの製品を併売する」と、全く正反対の方針を打ち出してきたのだ。そしてこの双方ともに、ゴルファー動向調査を行った結果としているが、その方法、その対象、その読み方、そして企業哲学、マーケティング手法の違いがその結論を生んだようだ。

また、どの企業も、フェースの反発係数を落とした新開発「適合製品」が、従来の「高反発(不適合)製品」より飛距離性能が落ちるとは言っておらず、技術開発(高打出し角度、低スピン化、高慣性モーメント、高性能シャフト採用、ボールとのマッチング改良などの材料・設計・製法革新による実現)により、むしろ更に飛距離が伸びたとしているから不思議だ。勿論これは、ゴルファーがドライバーに望む性能の第一が「飛び」に有る以上、無理からぬ話だろう。

ただ、冷静に考えてみると、1998年、この高反発問題がUSGAから提議され、数年にわたり論議され、規制実行に至る経過で一貫して主張されてきた目的は「ゲームの本質維持のための用具進化による飛距離増制限」だったはずで、メーカーが「適合製品」でありながら更に飛ぶ製品を作り出したら、協会サイドは、今度はそれらを規制する方向を検討するだろう。

このメーカーの飛び性能追求と、協会規制の「いたちごっこ」は、ゴルフ発祥以来常に繰り返されてきた事で仕方がないという人もいるが、それに振り回されて泣いているのは、一般のゴルファーであり、ショップであることを忘れてはいけないと思う。

そろそろゴルフ界全体で実質的な用具ルールを考える時

しかも、ゴルフが一部の裕福な人主体のゲームであった昔に比べれば、現代のゴルフ大衆化はめざましく、世界のゴルフ人口は約5900万人(日本1000万、アメリカ2700万人と推定)と言われており、今やその中には老若男女、少数民族も多数含まれている。

つまり言いたいのは、その中の0・01パーセントにも満たないエリートゴルファー対策で考えられた「高性能用具規制」を、ゴルフを楽しんでいる大多数の一般ゴルファーにまで適用し、ささやかな「飛ばしの楽しみ」を奪ってしまうことが、本当のゴルフ振興のために必要だろうかということだ。

最近、USGAやR&Aは、距離測定器具の使用を、ローカルルールで一般の競技に使用することを認めたが、それと同様の考え方で、ボールやクラブの適合リストにある用具の使用を義務付けるのは、逆に競技条件にそれを指定した競技(メジャー、プロツアー、オープン競技、協会が指定する主催、後援競技、それに準ずる競技など)に限定することは出来ないのだろうか。

ゴルフは他のスポーツと違い、それを生活の糧とするゴルフコース、コース関連業界、ゴルフ練習場、ゴルフ用品メーカー、ゴルフショップ、ゴルフコーチ、会員権業者など多くの産業に囲まれている。

もし一般ゴルファーに不利益となる用具規制強化で、将来ゴルファーが減少するようなことにでもなれば、それこそゴルフ産業全体にとっては「角を矯めて牛を殺す」ことになりかねない危惧を感じるのだ。

何事にも伝統を重んじるゴルフ界において、改革を行うことは特に難しいかも知れないが、ゴルフ産業に携わるもの全てが、真摯に協会と膝を交え、ゴルフ振興の一環として協議すれば解決の糸口が見つかるのではないだろうかと期待する。

これまでもこの問題に関しては繰り返しJGJAジャーナルに寄稿してきたが、実際の規制適用を前に、ゴルフ業界の思想統一がはかられることを切望している。