日本ゴルフ界は今、何をすべきか USPGAツアーコミッショナー ティモシー・フィンチャム氏講演会

EMCワールドカップ開催に伴い来日したUSPGAツアーコミッショナー、ティモシー・フィンチャム氏。11月16日に行われたJGTO100年祭イベントである同氏の講演会の内容と、大西久光氏とのディスカッションの内容を紹介する。

USPGAツアーが成功した3つの理由
USPGAツアーがPGAオブアメリカから独立したのは1968年のことです。以来、なぜここまで繁栄できたかを考えた時、主な理由が3つ挙げられます。
一つは「ゴルフ」というスポーツは元々クリーンなイメージを持っていたという点。昨年アメリカで世論調査を行ったところ、スポーツファンの実に92%が、「USPGAツアーの選手は子供達の規範になる」と評価してくれました。この数字は、他のスポーツに比べはるかに高かったのです。
二つ目の理由は、USPGAツアーが極めて独自の機構であるということ。我々の組織は、ノンプロフィットオーガニゼーションで、連邦政府に対して税金を支払うことはありません。当然、株主も存在しません。USPGAツアーは選手を「会員」とする会員組織なのです。ゴルフをすることで、生計を立てる という共通の目的を持った人々の団体なので、その意味では弁護士や医師の団体に似てるかもしれません。ストライキも起こりませんから、ファンの期待を裏切ることもないのです。USPGAツアーは最高決議機関となる「ポリシーボード」で、トーナメントの規定上の問題や、ツアーをどのように運営すべきかを決めています。メンバーは選手4人、外部のビジネスマン4人で構成されています。
そして3番目の理由に、ゴルフ人気の成長が挙げられます。タイガー・ウッズをはじめとするスターの登場によるところも大きいのですが、この現象は決して偶然起こったわけではありません。チャリティを通じてのイメージアップや、企業への働きかけを行ってきた結果だと思います。

テレビ放送権を一括して保持することでスポンサーに利益を還元

USPGAツアーとスポンサーの関係は、全てにおいて契約を結ぶことで成り立っています。例えばテレビ放送権。68年からUSPGAツアーでは全てのトーナメントのテレビ放送権を一括して保持し、スポンサーに利益を還元できるシステムを取っています。アメリカ全土でテレビ放映するのはもちろん、世界各国でも放映しています。
さらに、USPGAツアーとしては所有する28カ所の「トーナメント・プレーヤーズ・クラブ」(TPC)の運営も重要です。そのほとんどが、トーナメントの開催コースとなっており、各種の企業にオフィシャルスポンサーとして参加してもらうことで、収益金を得ています。これらの収益金は、ゴルフファンが求める情報サービスや、スコアリングシステムなどに費やされ、トーナメントの活性化に役立ているのです。
講演終了後、司会の大西久光氏とのディスカッションとなった。
大西久光氏(以下大西) USPGAツアーの収入源の一番大きなものは、テレビ放送権だと思います。ツアーがテレビ放送権を保持するまでの経緯を教えていただけますか。
フィンチャム氏(以下フィンチャム) ツアーが分離の動きを見せた68年当初から、放送権は個々ではなく、全てまとめてツアーが所有することを目指し、幸いにも実現することができました。トーナメント自体にテレビを組み込むことで、スポンサーのメリットをより魅力的にすることができるのですから、この点を上手くアピールすることが大切なのではないでしょうか。もちろん、最初から全てのトーナメントが協力してくれたわけではありません。我々は約1年の時間をかけて説得にあたりました。
大西 フェデレーション・オブ・PGAツアーズのリーダーとしての意見として、今後また日本でワールドカップは開催されるのでしょうか。

フィンチャム 今回のワールドカップを通じて、トッププロが一同に会することの重要性、その価値の高さを感じとって頂けたと思います。私も今回のワールドカップを見て、日本はゴルフに適した国だと思いました。現在、2006年までのスケジュールが決まっており、その中に日本は含まれていませんが、近々ぜひ日本で開催したいと考えています。
大西 日本のJGTOについての意見があればお聞かせ下さい。
フィンチャム JGTOが発足してから、日本のツアーは飛躍的な進歩を遂げたと思います。ただし、大切なのは「常に見直す」ということですね。USPGAツアーにも、JGTOの手本となるべき部分があるとは思いますが、それぞれ違う国で、それにマッチした組織作りをしていますから、日本も日本独自のツアーを運営すべきです。さらに発展していくためには、常に見直し、改善することが大切です。また、日本の選手はアメリカやヨーロッパ、そしてオーストラリアなど海外のトーナメントに参加してほしいと思います。海外でプレーすることで、選手自身も成長できると思いますし、それが日本ゴルフ界の活性化につながるに違いありません。スタープレーヤーが増えれば、経済的な面、マーケティング力なども向上します。
総論・テレビ放送権以前の問題が日本にはある

今回の講演を通じて明確になったのは、やはりJGTOとUSPGAツアーの「テレビ放送権」の違いだった。ツアーが一括してテレビ放送権を保持しているUSPGAツアーに対して、日本では個々のトーナメントが放送権を持っている。日本のトーナメントのほとんどは、テレビ放送権が発生していない。その大半は番組放送料分の赤字を、主催者、広告代理店、テレビ局が負担しているというのが現状である。
単純に考えれば「USPGAツアーの真似をすればいい」という結論に達するが、それがまだできない理由が日本にはある。答えはソフトに魅力がないからである。「アマプロだけが魅力」のゴルフトーナメントは、すでに通用しない時代に突入している。テレビ放送権云々を論じる以前に、まずはゴルフトーナメントそのものの魅力を向上させなければならない。
皮肉にもその事実を証明してくれた、EMCワールドカップに感謝したい。