世界中のゴルファーから尊敬され慕われる人間性豊かな米ツアーの大スターの姿勢  ~新岡 和子~

From member’s Voice
ゴルフが日本で始まってから100年が経過しようとしている。当初、ゴルフは特定の人、裕福な人しかできないスポーツであった。現在は庶民的スポーツとして認められてはいるものの、「真のスポーツ」としては、まだ受け入れられていない。
そこで、フロムメンバーズボイスでは、会員4名に「日本のゴルフ界をさらに発展させていくには何が必要なのか?」を主たるテーマとして、助言、提言などの意見を寄せてもらった。


 

私の取材活動において最もうれしかったことは、トム・ワトソンという敬意できる人格者で偉大なプレーヤーに出会えたことだと思うのだ。
アメリカ西部の名門スタンフォード大学で心理学を専攻したゴルフ界きってのインテリであり、紳士的でその誠実で人を包み込むような温厚な人柄は、世界の多くの人々から厚い人望を集めている。親しみやすく、気さくな人柄ゆえファンの多さも群を抜く。
私は長い間、ワトソンのプレーを観戦し取材し続けてきた。特に印象深いのは、1982年全米オープンで初めて優勝したペブルビーチの17番のチップイン。私は幸運にもグリーンサイドのすぐそばで観戦することができ、深く感動したものだ。世界のゴルフ史に残る一打だった。
ワトソンはボランティア活動にも先頭に立って行っている。特にワトソンは2つの分野について力を入れているのだ。
一つは子供の教育について、もう一つは子供の健康についてである。カンザスシティの小児病院の資金をつくるためのチャリティトーナメントをワトソンは20数年に渡り行っている。この病院のモットーは子供は全て入院費、治療費などがタダのため、たくさんの運営資金が必要なので、ワトソンは現在まで多額の資金をつくっては寄付している。また、子供の教育についても熱心で学校にも寄付し多大な援助をし続けているのだ。
ワトソンが子供たちに伝えてきたこと、それは終始一貫している。「彼らにはのびのびと育ってほしい。だが、小さいときにしっかり身につけておかなければならない、最低のルールがあるのだ。自分がして欲しいと思うことを他人にもしてあげなさい。目の上の人を敬いなさい。内面の美しさこそ、大切だということ。自分の出したゴミは誰の責任でもなく、自らが責任を負うべき問題だということ。ゴミの問題は物を大切にするという意識を養うことにつながる。自分の捨てたゴミは決して他人に拾わせてはいけないのだ」。
長年に渡りワトソンは、ジュニアゴルファーのためにも貢献している。単に強いだけではなく、社会に対するこうした配慮こそ、ワトソンの偉大さが現れている。
全米オープンの取材でアメリカに行った折りのことである。シカゴの空港でポーターを探しているときのこと。「KAZUKO!」と私の名前を呼んでいる人がいるのだ。振り返ってみるとワトソンご夫婦。「何を探しているの?」と聞かれ、「ポーターを探している」と答えたら、ワトソンが私の旅行カバンを持ってくれ、その上ホテルまで送ってくれた。
世界のトッププレーヤー、しかもこれから全米オープンの試合が始まる時に感謝すると共に、ワトソンの優しい人柄が表れていた。空港でファンからサインを求められると快く応じ、ワトソンの方からファンに対して「サンキュー」とお礼をいっていた。スターぶらず謙虚な態度で接していた。大スターが豊かな人間味あふれる姿勢こそが、米ツアーゴルフの人気を高めファンから尊敬され慕われるのだろう。
2001年はますますグローバルスタンダードの時代になるだろう。価値観もさらに多様化するに違いない。そんな中で日本の若手選手にもただ強いだけではなく、豊かな人間性を学んで欲しいと願ってやまない。

〈プロフィール〉新岡和子(にいおか かずこ)
立教大学卒業。現在、世界34カ国、596コースをラウンド。長年に渡り海外のメジャーを取材。現在も毎年行っている。ジャック・ニクラス、トム・ワトソンをはじめ、国内外プロゴルファーの独占インタビューも多数。アサヒゴルフサービスセンター(株)代表取締役。