【 GOLF・スケッチブック 】
記事はゴルフの諸事雑事を書いています
ゴルフとは何と不思議なスポーツだろうかと思ったことはありませんか? 一日のプレーのなかで、午前中の調子はいいが、午後になる急に悪くなる。前回は好スコアでルンルン気分、今回はゴルフを辞めたい気分に駆られる。あのハリー・バートンの名言「朝に自信を与えるかと思えば夕べには自信を失わせるスポーツである」を思い出す。
かつての名手“ボビー・ジョーンズ”は「長い目でみれば、結局“運”というものは、公平なものだ」といっている。かの“ウォルター・ヘイゲン”も、この運と不運の対処の仕方を身に付けていたとう。ある試合でヘイゲンの打ったボールが深いラフに転がり込んだ時、ギャラリーに「運が悪かったね」といわれて、平然と「ボールがラフにあるんだから、そこから打つだけのことよ」と答えたという。
全日本アマチュア選手権を6度も取った日本の球聖“中部銀次郎”は「不運が10回あれば幸運も10回はある。1年間をトータルしてみると平均して訪れてくるものだ」といって、この「平均の法則」に気づいてから動揺しなくなった、といっている。われわれアベレージ・ゴルファーは、プレーのアンバランスを心して取り組み、心の平静を保つ訓練を日頃から行っておきなさい、という教えであろう。
しかし、われわれにとって、この好調と不調の差を縮めることこそ大きな課題である。それにはどうしたらよいのか。熱心な練習が必須であることは十分わかっているが、その方法であろう。練習の1つはテクニックを磨く方法、これは言わずもがなであるが、練習方法もいろいろ工夫する必要があろう。もう一つはメンタルである。
作新学院の笠原彰准教授は「外的イメージトレーニング」(第三者が自分を見ているイメージのトレーニング=「メタ認知」ともいう)と内的イメージ(自分が実際にプレーしているイメージ)のメンタルトレーニングによって不調脱却を計る方法を説いている(著「ゴルフのメンタルテクニック50のドリル」)。
この脱却法は別の機会にご紹介するとして、イメージトレーニングの大切さを教えている。そういえばこんなエピソードを思い出した。
ベトナム戦争のころ、北ベトナムの捕虜になったアメリカ兵が、拷問に拷問の末、明日をも夢見ることさえできなくなった時、愛する人との日々を思い出し、また彼女の容姿のすべてを思い浮かべることで気持ちをつなぎとめていた。その時ふっとすてきなアイディアが生まれた。彼はゴルフが好きでハンディ7のシングルプレーヤー、“そうだ頭で18ホールプレーしてみよう”。(夏坂健著「されどゴルフ」より)
牢獄では何かをしなければ気が狂うのも時間の問題だ。それから故郷のホームコースを思い出し、何があろうとも1日1ラウンドを本気でプレーをする。落ち着いたある日をもってイメージゴルフを開始した。草木一本まで知り尽くしたわがホームコース、自分が競技に出場しているつもりで挑戦する。独房のなかで基礎体力作りを監視の目を潜って努力する。そんな毎日が続き、気がつけばその間6年3カ月も経っていたという。
帰還して間もなく彼は懐かしのホームコースのグラウンドに立っていた。そして彼のゴルフは完璧なプレーを演じてみせた。友人はベトナムへ行ったのはうそだろう、プロの修行をしていたに違いないと信じてくれなかったという。このエピソードはゴルフにとってイメージトレーニングがいかに大切な練習方法であるかを物語っている。苦境を脱出する方法として忘れてはならない大きな要素なのである。
[…] 参考:ゴルフ「平均の法則」の妙と逆境時のイメージトレーニング […]