憂慮すべきはゴルフルールの不徹底

宮崎紘一

いろいろ問題のあるわが国ゴルフ界だが、憂慮すべきはゴルフルールの不徹底というか、間違いの多さである。アマチュアがもっとも、興味を持つプロゴルフトーナメントでそれが多発する。話は少し遡るが、今年の6月上旬に愛知県で行われた女子プロツアーの「リゾートトラスト・レディース」で、重大な誤審が起きている。この大会はいわゆるオープン競技で、アマチュアも出場していた。その中に、地元中部地区出身の金田久美子(13歳)がいた。中学2年生の彼女は、8歳の時に世界ジュニア選手権10歳以下の部で優勝、以来天才少女といわれ、抜群の成績を挙げて注目され続けた。この大会も主催者推薦で出場、期待通り、初日1オーバーの11位タイと大活躍した。ところがそれから数時間後に失格という重大なペナルティを受けた。理由は、彼女の父親を始め家族ぐるみで交際するタレントの錦野旦氏が、試合中に応援に尽き、彼女がボギーを叩いた後「落ち着いて行けよ、スイングをもっとゆっくり」と声をかけたことだ。試合終了後のインタビューで、錦野氏の応援のことが話題になり、彼女は「錦野さんからいいアドバイスを貰いました」と悪びれずに答えている。ところが報道陣の中で、これはルールに抵触するのではという疑問が起こり、競技委員に報告した。その結果競技委員長を始め、4人のLPGA役員が彼女を事情聴取、「彼女の口からアドバイスを受けたとはっきり聞いたので、規則8条1項のアドバイスに抵触、その2打罰を付加せずにカードを提出したので、過少申告として失格にしました」(湯本弘子競技委員長)これが失格いたる大体の経緯である。ところが競技委員や他の役員も、マスコミも肝心のことを調べずに裁断を下し、誰もそのことに気づいていない。つまり彼女が「アドバイスを求めたか」ということである。これが明らかでなければ、彼女はまったくルールに抵触していない。

ゴルフ規則8条1項のアドバイスにはこう明記してある。「正規のラウンド中、プレーヤーは自己のパートナーを除き、競技に参加しているいかなる者にも、アドバイスを与えてはならない。一方プレーヤーがアドバイスを求めることができるのは、自己のキャディ、パートナー及びそのキャディである」つまり、自分のキャディやパートナーとそのキャディ以外に、助言を求めると規則に違反する。今回の場合、金田がボギーを出した後、どこかおかしいと思い、知り合いの錦野氏の姿を目にしたので、「今のゴルフはどこかおかしかったですか」と聞き、それに答えて錦野氏が何か言えば、これは求めたことになり、彼女は規則に違反したことになる。しかし、通りすぎる彼女に第三者が一方的に声をかけただけで、彼女はうなずいただけ。一体これのどこがアドバイスになるのか。競技委員は、「ただのギャラリーならともかく、錦野さんだから問題なの」と彼女に伝えている。よくルールブックを読んでもらいたい。一体どこに、知人か、ギャラリーかの区別をしているのか。

後日競技委員長に問い合わせたところ、「彼女がアドバイスを受けたと自分から証言したから」と答えた。語るに落ちるとはこのことである。「求めた」のではなく「受けた」から罰を加えたというのだ。これを金科玉条のごとく盾に取るが、まったく無知としかいいようがなく、法律に触れない行為を、法律を知らないために強引に刑務所にぶち込むようなものである。今回の件では、金田本人と応援についた父親の弘吉氏から克明に取材した。言葉だけでは証拠にならないと思い、すべて文書にもしてもらった。その言葉に嘘偽りがあれば、彼女は重大な偽証になるとそのことまで伝えてある。彼女は言葉が見つからず、とっさに「アドバイス」という表現を使ったという。その言葉尻をつかまえて、罰則を加える。13歳の少女の言葉だけで、失格という厳しい罰を加えてしまったのだ。おまけに、マーカーの天沼知恵子が、「マーカーの私に何の相談もなくペナルティを決めるのはおかしい。彼女はアドバイスなんか受けていなかった」と証言している。重大な証人の言葉まで無視している上に、こんな簡単な規則がわからなくて、競技委員という重責をまっとうできるのだろうか。数年前の日本オープンでは、当時アマチュアだった星野英正と一緒に回った尾崎将司が、「オイ、突っ込んでるぞ」と言葉をかけ、その時も星野は、「尾崎さんにいいことを教えてもらいました」と話し、それがアドバイス疑惑となった。しかしJGA競技委員は深く調べもせず、お咎めなし。星野は無罰だが、尾崎は明らかに他のプレーヤーにアドバイスを与えたことになり、2打罰の対象となる。強い者は見逃され、幼い少女は、無実なのに罪を着せられるとしたら、まさに「無法地帯」しかし日本のルールの現状はそうなのである。それ以前に、正しいルールの処置をしない。またそれをゴルファーにきちんと伝えない。これでは、ルールなど有名無実。今回の事件も、この事実を記事にしても女子プロ協会から、一切の反応はない。アマチュアはいつも置き去りだ。最後に米国と日本のルールに対する取り組み方の大きな違いを説明しておこう。1980年のトーナメント・オブ・チャンピオンズ。最終日トム・ワトソンとリー・トレビノが同じ組でラウンドした。それまでドライバーが絶不調だったトレビノ。見かねたワトソンが「ボールの位置がズレている」と指摘。トレビノはその助言で見事に立ち直った。しかし集音マイクにその声がはいり、明るみに出た。結果はワトソンはアドバイスを与えた罪で2打罰。求めなかったトレビノは無罰だった。例えどんな大スターであろうと、公平に罰をあたえ、また規則に則った処置をする。それがルールの精神であり、だからこそアメリカのゴルフは健全に発展している。日本も見習うべきである。