ギャラリー・ファースト、日本ゴルフ界が進むべき道

日経電子版2017年2月9日配信

5日に終了した米男子ゴルフのフェニックス・オープンで、松山英樹が4ホールのプレーオフを制して大会2連覇。日本選手として最多の米ツアー通算4勝目を飾った。

メジャータイトル獲得に夢が広がるその強さに圧倒されるばかりだが、大会が行われたアリゾナ州フェニックスのTPCスコッツデールにつめかけた観客の多さ、さらにそれを迎えるために設置された観客席のスケールなどは、日本では到底考えられないもので、ため息が出るほどのすごさである。

■総観客数は大会新の65万人超

1月30日の月曜日から始まったトーナメント・ウイーク。2月5日の日曜日まで7日間の総観客数はなんと65万5434人! 昨年の約62万人を抜いて大会記録を更新。ゴルフトーナメント最高記録となった。大会3日目(4日=土曜日)の20万4906人も新記録だった。

「1日のギャラリーが20万人?」。信じられないような数字である。ちなみに最終日が5万8654人と少なかった(?)のはここ10年ほど、米プロスポーツ最大のイベントでプロフットボール、NFLの王者を決めるスーパーボウルと日程が重なっているためで、例年のこと。

観客席も桁外れ。大会3日目に松山が、あわやホールインワンのピンそば40センチにつけたときに大歓声が上がった16番(パー3、162ヤード)は、ティーグラウンドからグリーンまでが観客席で囲まれており、このホールだけで2万人の収容能力がある。

日本でよくみられる10段ほどのギャラリースタンドの後方に、屋根付き3階建てビルのような観客席があるので、下からだと、観客席が4層になって見える。そんなスタンドがコース内のあちこちにある。まさに「ゴルフスタジアム」である。

■いかに楽しんでもらうか

全米にテレビ中継もされるが、要は、いかにギャラリー、お客さんに楽しんでもらうかに徹した結果であろう。

比較するのが寂しくなるが、日米の差にがく然とする。昨年の日本オープン(埼玉県狭山GC)は松山、石川遼、アダム・スコット(オーストラリア)のそろい踏みで話題となり、練習日から通算で4万6473人の大ギャラリーが詰めかけたが、フェニックス・オープンの65万人に比べると……。

米ツアー並みにというのは無理としても、日本も本気で「お客さんに来てもらう」ことを考えなくてはいけない時期に来ている。

日本ゴルフツアー選手会の宮里優作会長が2年目を迎えるにあたって「写真撮影など、トーナメントに来てよかったと思ってもらえるようにしたい」と、ギャラリーとの交流、意識改革をテーマに掲げたのは一歩前進だろう。

もう一つ、トーナメント開催コースが、本当にお客さんのことを考えて選定、設定されているかどうか。

例えばホールを囲むように張られるギャラリー整理用のロープ。選手の打ったボールがギャラリーに当たる事故を防ぐため、ラフのまだ外――というケースがほとんど。アップダウンのあるコースでは、山の中腹まで張り出している。

そこを上ったり下りたりの繰り返し。フェアウエーを歩く選手はドンドン先に行くから、お客さんはまるでクロスカントリーレースのよう。ゴルフを見るためにいったのか疲れるためにいったのかわからない。

ある選手は「僕たちもプロだから、あそこまでボールを曲げません。落下地点にフォアキャディーを配置してもらえば、もっと狭められると思う」という。

■コース選定もお客さん目線で

開催コース選定も一考を要する。日本オープンなど有名な大会は、名門コースと呼ばれるところで行われることが多い。そして、日本の昔からのコースは、いわゆる「砲台グリーン」が特徴の一つなので、ギャラリーはグリーンの下のほうから見上げることになる。

カップやグリーン面はもちろん、選手の姿すら見えないこともある。「つまらないから帰ろう」となるのも仕方ない。

おそらくコース設定をする際、担当者はプレーヤーからの目で見ているだろう。そうではなく、ギャラリーの立場からに目線を変えれば、もっと違った決定になると思う。

ゴルフの「アメリカ・ファースト(米国第一)」は揺るがず、ますます巨大化する。ならば日本は「おもてなし」の心、「ギャラリー・ファースト」で臨めばいい。

それがあれば、ファンはコースに足を運ぶ。

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