ゴルフのショット、決断助ける「もう一人の自分」

あなたは、自分のゴルフを見たことはあるだろうか?

「ビデオで」とか「練習場の鏡で」という人は多いだろう。でもそれはきっと、スイングチェックだったはず。そうではなく、1ラウンドなり、1ホール、あるいは大切な1打の時にどんなゴルフをしたかを、自分の目で確かめたことがあるかどうか……。

実際には不可能なことだが、プロゴルファーの羽川豊がそれに近いことを口にした。

優勝へ最終ホールで決断迫られた一打

毎年8月に静岡・裾野CCで行われるシニアツアーのファンケルクラシック。2連覇を飾った2014年大会最終日の最終ホール、通算6アンダーで首位の羽川を、同じ組の高見和宏が1打差で追う緊迫した展開になった。

全体が打ち下ろしの18番パー5は、グリーンの手前に池のあるスリリングな名物ホール。羽川のティーショットは、フェアウエー右のラフに行ってしまった。一方の高見は2打目を池の前に刻んで、3打目勝負に出た。

さあ羽川、2打目をどうするか。距離はピンまで198ヤード。ラフで右足下がり(右利きなら左足下がり)の難しいライからフックボール気味に打たなくてはならない。ミスして池につかまったら、バーディーはおろか、パーもとれない可能性があり、連覇を逸することにもつながる。

ボールの位置を確かめると、一瞬考えたあと、キャディーをしている長男・宜弘(よしひろ)さんが持つバッグの中から5番アイアンを抜き出した。決めたら早い。振り抜いたクラブから放たれたボールは、2オンこそ逃したもののグリーン右のラフへ。ここからのアプローチショットを50センチにつけてバーディー。パーに終わった高見に2打差をつけて、初日からの首位を守り切った。

ラウンドの間近で選手が客観的に見え

結果的には最高の決断となった2打目。羽川はこう振り返った。
「ボールがちょっと浮いていたし、迷わなかった。それに、あそこで刻んでたんじゃ、勝ちはないでしょう」

この「勝ち」という言葉は、もちろんこの大会の優勝もあるが、勝負に臨む気持ちを指しているのかもしれない。

かつて日本オープンを制し、マスターズに出場したこともある。近年は、全英オープン、全米オープンなどのテレビ解説やラウンドリポーターなどでおなじみだ。国内外のメジャートーナメントで選手たちのラウンドの間近にいると、いろんなことが見えてきたという。

「それはちょっと無理だなという時もあるし、逆に明らかに弱気になっているなと感じるときもある。自分でやっていた時は気づかなかったそういうのが、近くにいると客観的に見えちゃうんだよね。ファンケルの18番の2打目も、もう一人の自分がいて『勝つなら、ここは狙うしかない』と……。だから迷わなかった」

冷静に見てくれる「もう一人の自分」

われわれアマチュアのゴルフでは、「安全策で行けばよかった」とがっくりすることや、反対に「どうして強気になれなかったんだ」と、ほぞをかむことが日常茶飯、毎ホールのように起きる。

一喜一憂するのがアマチュアゴルフの“特権”だが、アドレナリン大爆発を起こしたり、借りてきた猫のようになったりするのではなく、ショットに入る前に、冷静に見て判断する「もう一人の自分」を意識することが大切かもしれない。

日経電子版2014年12月25日配信