メッチャ飛びのUSオープンチャンプ(2007)  ~西村 國彦~

16,17番をボギーにして追うタイガーと1打差になったトーナメントリーダー、カブレラ。吹っ切れたように18番では、フェアウェイど真ん中に、豪快なマン振りドライバーショット。去年のミケルソンの最終ホールとは大違い。最終組でないのが幸いしたのか、とにかく飛んで曲がらない。

今年の全米オープン最終日、1番のセカンドショット地点で、各選手のスタートをみていたとき、飛ばし屋のBワトソンやタイガーの遙か先まで飛んでいたのが、アルゼンチン生まれ、ちょっと太めのアンヘル・カブレラ37歳。500ヤードくらいのパー4でもセカンドショットをウエッジで打てそうなくらい、見事に飛ばす。

2日目など最終ホールで完璧なセカンドショットでベタピン。予選通過を期待していた11オーバーの選手たち19人の首を飛ばしてしまった男なのだ。3日目は最終組で5オーバーだったが、最終日は後ろから4組目でのびのびとプレー。14番では再度のベタピンショットで3アンダーまで伸ばしていた。タイガーが4日で8オーバーも覚悟したというモンスター、オークモントをねじ伏せるかのようなカブレラの快進撃が最後まで続くのか。

18番ティでカブレラのドライバーショットを撮影した新米カメラマンのボクは、そのまま彼の顔をカメラで追い続けた。とその時、フェアウェイに向かい足早に歩く彼が、ボクのニコンに顔を向けたのだ。もちろん夢中でシャッターを切るボク。

カメラマンとしては、現時点トップのカブレラを追うべきか、それとも1打差のタイガーを追うべきか。ちょうど隣はタイガーの15番2打目。これを写して、すぐカブレラのホールアウトまで追うことに。さっきの目は勝利を確信している目だもの。行かなくては。プロのカメラマンは月でも撮るような超望遠レンズ付きのカメラを何台も担いで獲物を追いかける。まねごとをしているボクは、カメラ1台でも汗びっしょり。ギャラリーが入れないロープの中でこんな肉体労働をしていれば、ダイエットなんか不必要さ。

60歳還暦の誕生日をオークモントのインサイド・ザ・ロープで迎え、カブレラやタイガーを間近で目撃し撮影まで出来たボクは、USGAとゴルフの神様からすばらしいプレゼントをもらったというわけだ。最終組18番、タイガーの祈るようなバーディパットはホールの右にはずれ、全ては終った。夕日が赤く染まる頃、アルゼンチンの英雄カブレラはグリーン上で仲間たちに囲まれていた。おめでとう、飛ばし屋カブちゃん

『袖ケ浦』(第129号):袖ケ浦カンツリークラブ 平成23年5月吉日 発行

ABOUTこの記事をかいた人

1947年生まれ。東大法学部卒。1976年弁護士登録(東京弁護士会)。
現在さくら共同法律事務所シニアパートナー。
1997年通産省会員権問題研究委員会委員。
ゴルフ場据置期間延長問題や東相模ゴルフクラブ(現上野原カントリークラブ)をはじめ南総カントリークラブ、太平洋クラブの再建など会員とゴルフ場を守るための活動を実践している。
また実際に自分の目で見てきたメジャートーナメントでの経験や、実際に自分が世界(米国・英国・アイルランド・豪州・アジア)の素晴らしいコースをプレーした経験をさまざまな形で発信しているゴルフジャーナリストでもある。掲載誌は月刊ゴルフダイジェストアルバトロス・ビューゴルフ場セミナーゴルフマネジメントゴルフィスタなど多数。
主な活動・著書
「ゴルフ学大系」のうちゴルフの法律」(1991年・ぎょうせい)
「ゴルフ場預託金問題の新理論」(共同執筆)(1998年・日本ゴルフ関連団体協議会)
「ゴルフ会員権再生の新制度」(共同執筆)(1998年・日本ゴルフ関連団体協議会)
「ゴルフ場再生への提言」(1999年・八潮出版社)
経済産業省サービス産業課「ゴルフ場事業再生に関する検討会」レクチャー(2002年)
「賢いゴルフ場 賢いゴルファーのための法戦略」(2003年・現代人文社)
「平成ゴルファーの事件簿」(2003年・現代人文社)
「ゴルフ場の法律に強くなる!」(2007年・ゴルフダイジェスト社)
「ゴルフオデッセイはにかみ弁護士の英米ゴルフ紀行」(2011年・武田ランダムハウスジャパン)
ほか、近著に太平洋クラブを舞台に会員の全面勝利を描いた
「ゴルフ場 そこは僕らの戦場だった」(2015年・ほんの木)
月刊「GEW(ゴルフ用品界)」に連載された
「ゴルフ文化産業論」(2021年・河出書房新社)がある。