ゲームの山とスイングの山

ゴルフを極めていくには、ふたつの山があると僕は、思っている。ひとつが「スイングの山」である。スイングの完成度を高め、ショットの精度を上げていくという山である。

そしてもうひとつが「ゲームの山」なのである。つまりはゲームマネージメントであり、メンタル面のコントロールであり、18ホール、トーナメントならば72ホールをどう組み立てて(演出して)いくかを熟知して試合功者になっていくための山である。

最近、スイングの山登りについては、ゴルフメディアも溢れるほどの情報が満載していて、果たして自分にとってどれが良いいのかさえ解らなくなるほどの情報量なのだ。

ところが「ゲームの山」の重要性や面白さなどを語っているメディアは少ないと思う。

例えば、あるトーナメントの試合の流れである。あるいは、その18ホールの流れである。そして、何故、この選手が勝てて、何故、この選手が敗れたのかというゲーム性について、あまり語られていない。つきつめると、試合の中での敗者と勝者の間には、必ずストーリーがあって、試合の流れを決定づけた「1打の背景」があるはずなのだ。

かつて中嶋常幸が「この1打を試合で打ちたいために、どれだけの(私生活での)犠牲を払ってきたか、誰もわからないと思う」といったことがある。それは1993年全日空オープンに優勝したときのことだ。17番ホール、579ヤード、パー5。ちょうど第1打落下地点から、2オンを狙うルートが左ドッグレッグになっている。さらにグリーン右サイドぎりぎりまで林が迫っている。

第2打、ロングアイアンで2オンを狙うショットは、確かな球筋を放つ技量と勇気が問われる。中島は、優勝争いの中で、その1打が思惑通り打てる努力をしていた、という背景だ。

最近のトーナメントがつまらないとか、盛り上がらないという声をよく聞く。確かに、そう思う。けれども、それは報じる側のメディアにも責任があるのではないかとも思うのだ。

トーナメントの4日間を起・承・転・結というくくり方をしてノンフィクションを書いても面白いだろうし、1打の背景を突っ込んでも面白い。あるは、ゲームの流れを変えた、捕らえたポイントを絞って読ませても面白い。きっとゴルフゲームの奥深さ、幅広さを知ることができると思う。

例えば、2014年の日本シニアオープンに優勝した倉本昌弘のコメントの中で「ティショットをわざとラフに入れたほうがいいホールがいくつかありました」と言った。テレビ中継では、アナウンサーが「あー、ラフに入ってしまいましたねぇ」と言い、ミスショットだと決めつけていたけれど、それは間違いだった。

何故、ラフに入れたほうがよかったのか。それを知りたいわけである。

それはグリーンが天候などの影響で存外に柔らかく、速く、しかもアンジュレーションがきつい状態。するとフェアウエイからナイスショットしても、バックスピンがかかりすぎて、どんどんカップから離れてしまうホールもあった。ラフの芝がフェースとボールの間に少し噛むことによって、それを防ぐという手立てもあるわけだ。攻めるルートが、ラフのほうがベストだったというケースもあった。

つまりはゲーム性だ。

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球聖ボビー・ジョーンズの言葉を借りれば「ゴルフは体力よりも主として《耳と耳との間に存在するもの》によってプレーされるゲームである」ことを実践していたわけだ。

18ホールのコースの流れが、どうなのかというスポットの当て方もできる。その難易度を棒グラフにして紹介するだけで、どんな流れでゲームを進めていけばいいのかの基準が解る。

きっとそれらは、テレビだけで見せるには、かなり時間的制限がある。でも、新聞ではスペースがなさすぎる。そういう読み物こそ、ゴルフ雑誌が扱うべきだと思う。そういう記事が毎回、視点を変えて提供されれば、読者であるゴルファーも「スイングの山」だけでなく「ゲームの山」を登っていくことができるはずである。

再び、ボビー・ジョーンズの言葉……。

「ゴルフにおける力学(技術)は、わずか2割に過ぎない。あとの8割を占めるのは、哲学であり、ユーモアであり、悲劇、ロマンス、メロドラマ、友情、同志愛、強情、感性、そして会話である」

つまりは、読者に与えられる情報は、わずか2割しかないといっても過言ではない。

 

(ゴルフトゥデイ2014年11月掲載)

ABOUTこの記事をかいた人

1949年2月24日神奈川県逗子市に生まれ。立正大学仏教学部を経て、週刊アサヒゴルフ副編集長ののち、1977年に独立。著書に「タイガー・ウッズ伝説の序章」「伝説創生」など。2011年春に「ブッダに学ぶゴルフの道」(中央公論新社)を発売。日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員。日本ゴルフ協会オフィシャルライター。日蓮宗の僧侶。

主な活動・著書
「タイガー・ウッズ伝説の序章」「伝説創生」など