日本ゴルフジャーナリスト協会  2013年新春セミナー内容

1新年の門出を祝う恒例行事「JGJA新年会」は、今年も1月最終週となる25日金曜日に開かれた。新年会パーティーに先立ち行われた新春セミナーは、PGMホールディングス株式会社の代表取締役社長、神田有宏氏を迎えアコーディア・ゴルフに対する株式公開買付けに踏み切った経緯や狙い、今後のゴルフ業界への展望など、当協会副会長の片山哲郎が聞き手となり大いに語っていただいた。

片山 昨年の11月下旬から今年1月17日までアコーディア・ゴルフに対して株式公開買付け(TOB)を行いました。結果から申し上げるとPGMが取得したのは約17パーセントであり、不成立となりました。1週間が経過しましたが、どんな印象をお持ちでしょうか。

神田 すでに弊社のHPをはじめ、マスコミ各社が報道しているように結果としては17パーセント、TOBの条件が20パーセント以上ということですので不成立に終わりました。このような結果になったのは、様々な理由が考えられますが、総括としては私もまだ分析しきれていません。ただ事実として、16日までに私共の代理である証券会社に移管されていた株の数は相当数あり、成立してもあまりある数がありました。しかしながら、現実には17日に価格が上昇し、一部の報道があってからはさらに3000円以上も値が上がりました。つまり、移管できる相当数はあったものの、申し込みに至らなかったということです。
私共としてはTOBを行ったことで、アコーディアさんに対し意思表示をしました。そういった意味では今後、何らかのアクションがあると思っており、引き続き見守って行きたいと思っています。

これ以上の価格下落を止めなくてはならない

片山 一連の経緯の中では激しいやり取りがありましたが、アコーディア・ゴルフも統合そのものに全面的に否定はしていません。今後に注目していきたいと思いますが、そもそも何故統合が必要なのか。お聞かせください。

神田 ゴルフ業界のマクロ感をどうみているのか。これに尽きると思っています。要するに需給関係も含めてゴルフ業界がいまどのような立場にあって、今後どうなっていくのか。私は、アコーディアの経営をやっている時から「統合すべきだ」と申し上げてきた。今回のTOBについては、PGMの社長になったことでよりアクティブに模索したということです。
そもそも、日本には約2400カ所のゴルフ場があります。バブルが崩壊し、預託金問題が起き、ファンドがゴルフ場の再生ビジネスを始めゴルフ場を預託金依存からキャッシュフローへと転換させてきました。しかしその副作用として本来であれば退場すべきゴルフ場も再生してしまい、2400という数に大きな変化はありませんでした。需給関係でみれば、ゴルフ人口が減り、客単価も落ちていく。私がゴルフ界に携わり約10年、単価が上がったことは一度もありません。つまり、ゴルフ人口は伸び悩みながらもゴルフ場数は変わらず供給過多のまま、さらに客単価も下がってしまったということです。
現在のPGMの平均客単価は9500円前後で、アコーディアさんは9600円程度だと思います。両者とも毎年300?500円程度下がっている認識があります。今後、急激にゴルフ人口が増加することは難しく供給過多の状況は続くでしょう。ゴルフ場がゴルファーを取り合い、単価の下落も続く。大手2社が統合し、業界のリーダーとしていろいろな活動をしていくことが急務ではないでしょうか。

片山 バブル時代は3万円前後といわれた客単価ですが、現在では9000円台。単価がここまで下がったひとつの原因として、大手2社の影響力があったのではないでしょうか。
神田 結論から申し上げるとその通りだと思います。両社の経営に携わった者として、常にライバル企業を意識してきましたから。ただ、両社ともに価格が上がっていればプラスの相乗効果と呼べるでしょうが、両社とも下がっており負の相乗効果になってしまっているのが現状です。仮に統合ができなくても、価格についてのコーディネイトはしなくてはならないと思っていますが、独禁法の問題もありますので、統合することがスムーズだと考えます。
また、ゴルファーにとってもバブル時代の平均単価よりもいまの価格帯のほうが良い環境だと言えます。ゴルファーにデフレは歓迎されるわけですが、どこまでが妥当であるかは見極めが必要です。現在、当社での固定費は65?70パーセントです(主に人件費や固定資産税、その他営業に必要なもの)。業界としては標準か、少ない方だと思います。ゴルフ場事業は固定費を捻出しなければ利益が出ません。現在の弊社の平均単価は9500円程度で、8000円台まで下がっても耐えられる試算が出ていますが、かなり厳しい状況になると考えられます。100コース以上を保有する当社でさえ厳しくなりますから、他のゴルフ場さんは限界を超えるのではないでしょうか。
具体的にいえば、度を超えたコスト削減はコースメンテナンスを悪化させ、サービスの低下を招く、ゴルファー自身も望まない姿になる可能性を秘めています。つまり、ゴルファーとゴルフ場、お互いがWINWINの関係となれる価格帯は現在の水準ではないかということです。

片山 両社が統合すると全国のゴルフ場の約1割、来場者数でいえば2割弱の規模となります。それだけの規模があれば価格の下落が抑えられるということでしょうか。

神田 そんなに簡単なものではないと思っていますが、そういった努力をすることで、他のコースに影響を与えられるのではないでしょうか。現在の状況は、横のつながりがないので価格競争をするだけ、お互いに消耗戦になっており、終わりが見えない状況なのです。

企業規模を活かしたさまざまな活動ができる

片山 仮に統合すると、どんなメリットが考えられますか。

神田 会社として、マーケットとして、2つのメリットが考えられます。会社としては同じようなビジネスをしているわけで、統合=1+1=2ではなく、1,5くらいに収まります。本社は1つ、システムも1つ、40万人を超える会員もひとつにできます。他にも同じ商売をしているわけですから、コスト面で効率化が図れる部分が多くあるわけです。また、資金調達を考えても規模が大きくなることでのメリットが考えられます。現在、両社とも信用格付けはBBB+です。規模が大きくなり借金も増える反面、マーケットの見方が変わり格付けが上る可能性を含んでいます。売上にかんしても2社が統合すれば、1500億円規模となり、平均で100円単価を上げられれば15億円の増収となります。コストを下げることには限界がありますが、売上政策は未来につながります。

密に業界にかかわることがゴルフ業界の活性化へつながる

片山 平和グループとともにゴルフの財団を作る動きがあると聞いています。

神田 まだプレスリリースをしていませんが、日本で初めてのジュニアのゴルフ財団を設立する予定です。我々は保有する127コースを提供し、財団がジュニアの育成にコミットする。少しでも業界のためになればと思っています。また、今年11月には男子ツアーの開催も決定しています。これもしっかりと業界にコミットするため、単発ではなく複数年やる予定があります。「日本一開かれたトーナメント」を目指し、世界ジュニアに出場する選手には、設立する財団が渡航費用を持ち、なおかつツアーの本選出場権を与えたり、チャレンジトーナメントも開催しシードを持たないプロにも出場する機会をつくります。さらに、クラブチャンピオンの中のチャンピオンをトーナメントに出場させるなどの計画もあり、プロ、アマ問わず開かれたトーナメントにしたいと思っています。

片山 直近では2014年に導入予定の消費税が問題となっています。

神田 ゴルフ場にとっては、利用税と消費税ダブルパンチです。平均単価3万円の時代といまの9000円台では重さが違います。地方税などの絡みがあり、難しい問題でありますが、撤廃へ向け引き続き業界全体で取り組んで行かなければならないでしょう。
また、先程も述べたように毎年単価が下がっているなかで、消費税をお客様に負担していただくことは厳しいと感じています。現在の来場者は約700万人、一人あたり500円として35億円、どうやって負担するか、大きな問題です。

片山 過去10年間はチェーンオペレーションが活発になり単価がダウン、ゴルフがカジュアル化し多くのメリットが生まれました。次の10年間を考えると付加価値をつけることを考えなくてはなりません。PGMとしての考えはありますか。

神田 差別化をしてお客さんにあったコース作りをする。言葉を並べれば簡単ですが、実際にはすごく難しい問題でしょう。メンテナンスやサービスがいき届いたハイエンドなゴルフ場を作ってもお客様がついてこられないと思うのです。現実問題として、ある程度このデフレを脱却できないと難しいと思います。

片山 ゴルフ業界活性化へ向け、どのようなことが必要だと思われますか。

神田 業界全体で危機感を共有して欲しいと思います。個人的には「このままいくとみんなが死んでしまう」そのくらいの状況に貧していると思っています。ゴルフ場利用税にしても、今回の税政改正で自動車産業は減税を勝ち取っています。ゴルフ利用税はもっと根本的な問題です。2020年の五輪開催へ向け東京では誘致活動をしています。その五輪で正式種目となる“スポーツゴルフ”をするのに税金を取ること、それだけを考えても恥ずかしいと思います。
また、来年には消費税がやって来ます。2400のゴルフ場があってゴルファーが減っていたり、今年の成人式は過去最低の人数で若年層は少なくシニア層が増えていたり、全てが事実です。しかしながら、世界でゴルフに対する産業や文化が根付いているのはアメリカと日本くらいです。業界としてまとまり行動を起こすことで明るい道がひらけるのではないでしょうか。