第17回JGJA懇話会  ~日本のゴルフ場を買収し続ける外資は、   救世主か?ハゲタカか?~

2005年6月22日、日本ゴルフジャーナリスト協会は、恒例となっているゴルフ懇話会を開催した。今回のテーマは、「日本のゴルフ場を買収し続ける外資は、救世主か? ハゲタカか?」。そこで、現在100コース近いゴルフ場を傘下におさめる外資系ゴルフ場運営会社・株式会社アコーディア・ゴルフの代表取締役社長・竹生道巨氏をお招きし、お話しを伺ったので、その一部を紹介する。

外資から見た日本のゴルフ場

―― まず、アコーディア・ゴルフとゴールドマン・サックスとの関係についてお聞きしたいのですが。

竹生道巨氏(以下、竹生) ゴールドマン・サックスは、世界的に有名なアメリカの投資銀行です。ただ、日本には〝投資銀行〟というカテゴリーがありませんから、あまりピンとこないかもしれません。簡単に言えば、東京三菱銀行と野村証券が一緒になったような会社です。ビジネスの基本は投資ですね。そして、ゴールドマン・サックスが新たなビジネスとしてスタートしたのが、再生ビジネスというわけです。

アコーディア・ゴルフは、ゴールドマン・サックスが100%出資する子会社で、彼らが買収した破綻ゴルフ場を再生、運営しています。私がこの仕事を引き受けたとき、「ゴルフ場の構造改革には10年はかかりますよ」という話をしました。ゴールドマン・サックスもアコーディア・ゴルフとしても、買収は、短期売買のためではなく、長い目でゴルフ場の運営、再生に取り組んでいるのです。

アコーディア・ゴルフの設立から3年経ちますが、現在も、このスタンスに変わりはありません。

―― これまで、竹生さんはアメリカ・ロサンゼルスのリヴィエラ・カントリークラブをはじめ、欧米にある数々の名門ゴルフ場の経営に携わってこられました。そういった経緯を踏まえた上で、アコーディア・ゴルフ設立当時は日本のゴルフ界にどんな印象をお持ちになっていましたか?

竹生 まず思ったのが、「もう少し、ゴルフ場運営をサービス業として捉えたほうがいいのでは」ということでした。

具体的には、コース整備などの予算がない、コースメンテナンスをする人もいない、プロショップにもスタッフがいない……。要するに私が就任する以前から、リストラが進み過ぎていて、サービス業として機能していなかった部分があったと思います。

私がアメリカやイギリスのゴルフ場でしてきたことをそのまま日本でしようとは思いませんでしたが、〝サービス業としてのゴルフ〟にするには、どうすればいいのだろうか、と考えていました。

―― 接待ゴルフが全盛だった頃の日本のゴルフ場には、やはりサービス業として欠けていた部分があったとお考えだったんですね。

竹生
 ええ。私は、日本のゴルフ場は不動産業、あるいは会員権ビジネスとして成り立っていたのだと思っています。これは、オーナーが悪いとか誰が悪いと言うのではなく、時代の流れだったのでしょう。事実、ひとつのゴルフ場をオープンして営業を行っていくよりも、新しいゴルフ場を1つ、2つと作って会員を募集していた方が利益が上がったように見えたわけですからね。

ですから、多くのゴルフ場は、高級感をウリにして、「中の上」あるいは、「上の下」のランクを目指していた。「お客さんが少なくて静かなゴルフ場がいいクラブである」というイメージが定着していた時代でしたよね。

アコーディア・ゴルフが掲げる4原則

―― サービス業としてゴルフ場運営を行っていく上でのアコーディア・ゴルフのコンセプトを教えてください。

竹生 会社設立当時は、まずは「ブランド化」をテーマに置き、4原則を確立しました。

ひとつは、ハード面の整備。これは、コースコンディションや建物、カートなどの整備が含まれます。当然のことですが、ゴルフ場という商品で営業していくわけですから、プレーに来たお客様に満足頂けるものを提供していくということを最優先課題としました。

  ふたつ目が、プレースタイルのバリエーションです。ゴルファーの中には、カートに乗ってプレーしたい方もいれば、歩いてプレーしたいという方もいらっしゃいます。また、「アコーディアのゴルフ場では、キャディ付きプレーができない!」と誤解されることが多いのですが、キャディ付きプレーとセルフプレーのチョイスももちろん可能です。他にも、「週末は、朝5時頃からプレーして午前中のうちに帰宅したい。そして、午後は家族サービスの時間に使いたい」という方や、逆に「お昼頃までゆっくりして、午後からプレーを楽しみたい」というゴルファーにも対応できるよう、早朝、薄暮プレーなども設定しています。

つまり、ニーズは多様化していますから、それぞれの生活に合ったプレースタイルをチョイスできるようにしているわけです。

―― 3つ目はどんな内容でしょうか。

竹生 レストランの改革です。私が日本に帰って来た当時、知人に「ゴルフ場に改善してもらいたいこと」を尋ねてみると、コース自体についての意見はあまりありませんでしたが、「レストランの料理がおいしくない、値段が高い」という声が非常に多かったんです。ゴルフ場のメニューって、「ラーメンだけを食べたかったのに、小鉢やサラダが付いてくる」というケースが多いですよね。ですから、例えばボリュームの少ないメニューを置いたり、単品メニューを入れるなど、お客様の意向に沿うようなものを提供するようにしました。

そして、4つ目がプロショップの価格、品揃えを町中の量販店と同程度にすることです。当初は、ボールやグローブなど消耗品が中心でしたが、3ヶ月くらい経つと、現場の方から「クラブも置きたい、ウエアも置きたい」という声が出るようになりました。現在は、ショップとしてかなり充実していると思っています。以上がアコーディア・ゴルフの4原則です。

―― さまざまな対策を立てて、すでに多くのコースで結果を出していますが、一方では「そんなにゴルファーを詰め込んでコースが荒れるんじゃないか?」という声も上がっているようです。この点についてはどうお考えですか。

竹生 現在、首都圏にあるゴルフ場では年間入場者数の上限を6万人に設定しています。ですが、調査した結果、実際のところゴルフ場のキャパシティは8万8000人くらいだと考えています。日本のゴルフ場の平均入場者数は約3万6000人ですから、実際は半分にも満たない状態なのです。飛行機にたとえていうと、常に半分以上が空席状態ということになりますよね。「コースが荒れる」どころか、どうやって半分以上の空席を埋めるかを考えなければいけない状況ですよ。

ゴルフ場買収の真の目的は?

―― 今回は「外資は救世主か? ハゲタカか?」というテーマです。先ほどもお聞きしましたが、一部からは「短期売買が目的ではないか?」という声も上がっていますが、今後はどういった展開をお考えですか。

竹生
 ゴールドマン・サックスは、基本的には投資した案件に対し、リターンを得た上で会社を上場するということを目指しております。上場については、今年の4月に準備室を設置して、準備を進めています。ゴルフ場運営ビジネスで上場するのは世界的に例がありませんから、そうなれば初めてのケースになりますね。

―― ゴールドマン・サックスがゴルフ場を買収するときの基準はあるのでしょうか。

竹生
 2001年の末に日東興業を、2002年にスポーツ振興を買収しましたが、どちらも30コース以上を持つ規模でしたから、ひとつひとつを選んではいませんでした。ただ、今後は買収価格が上がってきていますから、収益の見込みのあるゴルフ場を十分検討して選別していくことになるでしょう。

―― アコーディア・ゴルフとしては、現在80コース以上を運営していますが、最終的には何コースくらいを目標にしているのでしょうか。

竹生 単純に100コースよりも200コース保有している方がいいのか、というとそういうものではないと思っています。ただ、100というのが集中購買力がより大きな威力を発揮できる単位ですから、100コースは最低限必要だと考えています。しかし、100以上になれば、150でも200でもコスト的にはあまり変わらないわけです。ですから、今後は買収ではなく、提携という形で事業を進めていくかもしれません。協調できる他社とシステムを連動させて、新しいネットワークを構築した方がメリットは大きくなると思います。今はまだ、そういう時期ではありませんけどね。

―― 100コースを持つ会社になれば、赤字になるコースも出てくると思います。将来的に採算の取れないコースを売却することは視野に入れているのですか?

竹生
 まず、現状ではキャッシュフローベースで赤字のコースはありません。また、今後についても、縁があって預ったゴルフ場ですので、売却は考えていません。もちろんビジネスですから、とことん努力して、最終的に毎年数千万円の赤字が出るようなコースが出てくれば、そのときは考えざるを得ないかもしれません。

今後の課題とその対応策

―― 御社の課題があるとすれば、どんなことでしょうか。

竹生 現在、アコーディア・ゴルフ全体で会員様は17万人いて、平均年齢は59歳です。単純に考えて、このまま行けば10年後には平均年齢は69歳になってしまいますよね。しかし、今後10年の間に、多分6万人はゴルフをプレーするのをやめてしまうだろうと予想しています。

年会費の収入などを考えれば、当社が非常に厳しい状況に追い込まれることは間違いありません。ですから、10年の間に6万人の会員様を集めなくてはならないことになりますが、現状のままではとても厳しいと思っています。

―― その状況を打破するために、どういった対策を考えているのですか。

竹生 まずは、現在の会員様ができるだけ長く会員様でいてくださることです。そのためには、会員様になることの付加価値を高めていくことが必要だと思っています。

具体的には、まず会員様のゴルフの腕が上達するように、お手伝いをしていくということです。例えば、クラブフィッティングやクリニック、ラウンドレッスンなどですね。この制度を確立するには、ホームドクターになるような、プロの存在が不可欠になってきます。

他にも、ゴルフプラスアルファの部分、例えばイベント発信なども積極的にしていこうと思っています。

―― どんなイベントを考えていますか?

竹生 まず、リヴィエラ・カントリークラブで働いていたころ、実際に行ったイベントを紹介しましょう。たとえば、有名シェフを呼んだパーティやワイナリーと組んだ企画、ロレックスやカルティエの展示会など、カップルで楽しめるイベントを行いました。

こういったイベントをそのまま日本に持ち込んで成功するとは思っていませんが、現在は、日本のマーケットに何が受け入れられるか、会員様の声を聞くなどして、模索しているところです。

―― 既存会員様の付加価値を高めていく一方で、ゴルファーの新規開拓も必要になると思います。このことに関しては、どういった対策をしているのでしょうか。

竹生 新しいゴルファーを開拓する一番の近道は、今のメンバーのお子さんにゴルフをはじめてもらうことだと考えています。父親、あるいは母親がゴルフをしている環境にいれば、そうでない子供に比べてゴルフが身近にありますからね。

当社では、ジュニアレッスン会の開催、60歳以上の個人会員様はお子様に名義書換した後でも会員としてのプレーを継続していただける制度の導入など、次の世代への間口を広げています。

―― 最近は、メンバーフィとビジターフィがほとんど変わらない状況のゴルフ場が多いですが、竹生さんのお話を伺っていると、会員重視という方針でいらっしゃるんですね。

竹生 当然の姿勢です。「アコーディア・ゴルフは、会員を疎外してビジターを入れて収益を上げている」などと言われたこともありますが、そんなことをしていたら、はじめの一年は持つかもしれませんが、長期的に見れば絶対に通用しませんからね。方針は創立当時から変わっていません。

ゴルフ界発展にはコースの2層化が理想的

―― 御社の今後のビジョンを伺いましたが、日本のゴルフ界全体を見たとき、今後発展していくためには、ゴルフ場はどういう姿になるべきだとお考えですか?

竹生 将来的には、高級感のあるコースと誰もが気軽に楽しめるようなコース、という2層に分かれるのが理想だと思っています。他にも、細かく分ければアスリート向きのゴルフ場などもあるでしょうが、基本的には2層でいいと思います。割合は、だいたい2割が高級感のあるコースで、8割が皆さんが楽しめるコース。しかし、現在の割合はまったく逆ですよね。ですから、6割のゴルフ場が経営方針を転換しなければならないのではないでしょうか。もちろん、その際は会員様とのコミュニケーションをしっかりとって、会員様が納得できる形にしなければいけないと思っています。

―― 最後にお聞きします。ゴルフ場運営で一番大事なことは何ですか?

竹生 難しい質問ですが、やはりゴルフを好きになることだと思います。私は従業員には、「ゴルフをしなさい」「従業員コンペをしなさい」とよく言ってます。上手くなれといっているわけではありません。私自身もあまり上手い方ではありませんが、ゴルフをもっと好きになることで、お客さんの視点が養われ、サービスが向上するのだと思います。だからこそ、自分がゴルフを好きになることが一番大切なのです。

―― ありがとうございました。

 

  竹生 道巨(ちくぶ みちひろ)
(株)アコーディア・ゴルフ代表取締役社長

1950年生まれ。1985年に日東興業(株)に入社。米国ゴルフ場の支配人、欧州地区部長などを務めた後、1998年に米国の名門ロサンゼルスリヴィエラ・カントリークラブ副社長兼総支配人となるなど、欧米の数々の名門ゴルフ場にて要職を歴任する。2003年より(株)アコーディア・ゴルフCEO(最高経営責任者)に就任。2005年より現職。